どんなときでも連載し続ける「愛と根性」

『ぼのぼの』の連載開始から担当編集として携わっている辻井氏は、いがらし先生の『ぼのぼの』に対する愛情がすごいと語る。

『ぼのぼの』って一度も休載していないんですよ。東日本大震災のとき、先生は仙台で仕事をしていましたが休みませんでした。病気で入院されているときも休んでいない。もうこれは愛と根性ですよね

 いがらし先生と辻井氏には、お互いに長年バディを組んできたからこそわかることもあるようで。

普段から会話していても、普通の作家さんとは言葉遣いが全然違うので、とても考えさせられます。例えば、名言集でも選んだ“でもまちがっても大丈夫、別なものが見つかるから”のような人生に対してのやさしさを感じることですかね。

 ひと言ひと言がすごく勉強になる。いわゆる少年漫画みたいに、誰かと戦う日々を描くような人じゃない。友情・努力・勝利だけで人生が語れるわけじゃないっていうカウンター性をもって物語にしているわけだから」(辻井氏)

辻井さんのいいところは、誉めるところが的確だった。それからほっといてくれるところ。もし、もっとわかりやすい作風にしましょうとか言われても、自分が面白いと思ったものしか描けないので、無理だと思うんです。でも辻井さんはそういう無理強いは絶対にしないので、それが長くつづいた要因でしょうね」(いがらし先生)

 漫画家と担当編集というと、作風や今後の展開について2人で話し合って進めていくことをイメージするが、辻井氏は、いがらし先生になにかアドバイスをすることはあったのだろうか。

いがらし先生って僕がなにか言っても、言うこと聞かないんですよね(笑)。僕が言ったのは“ラッコの主人公”にしてくださいと言っただけです。

 先生には『ネ暗トピア』というシュールで過激なギャグ漫画を描いていた時代がありまして、その当時、4コマギャグ漫画のなかで日本でいちばん面白いって言われていたんですよ。そんな先生が生み出す“笑い”に関して誰も何も口を挟めないですよね。

 面白いところは、面白いですねって言うけど、わからないところは自分がわからないだけであって、他の人はわかるかもしれないから、一切何も言ってないです。僕がわからないことに関しては話してもしょうがない。いがらしみきおは、そういう人です

 いがらし先生に対して「笑いというジャンルにおいてリスペクトしている」と評価するのは、こんな秘話があったのだとか。