全国紙の社会部記者が解説する。

「Aが茨城の事件と何らかの関係があるかもしれないという情報は最初、警察庁から漏れました。それでメディアが騒ぎ出し、硫黄所持で逮捕されたときには各社が現場に駆けつけました。茨城県警の署員も1人同行しています」

 埼玉県内の現場になぜ、茨城県警の署員が居合わせたのか。同県警県民安心センターの担当者は、取材に対してこう回答するにとどまった。「(Aに関する)報道は把握しているが、埼玉県警が捜査している案件なので、コメントできない」

 人口約2万4千人の境町を震え上がらせた事件現場は、うっそうと生い茂る雑木林の中にある。周囲には畑が広がり、近くの民家までは約300メートル離れ、そこだけぽつんと孤立している。2月上旬現在、雑木林の周りには規制線の黄色いテープが張り巡らされていた。

事件から1年半がたっても、現場には規制線が張られていた('21年2月撮影)
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 雑木林の中へ通じる道が1本だけ開かれているが、規制線が張られたその入り口に立つと、奥には物置の小屋や廃屋が見えるだけで、その先に小林さん一家が住んでいた一軒家があるかどうかまではわからない。

 雑木林のそばには釣り堀があり、10人ほどの客が談笑しながら釣りを楽しんでいた。

 この一軒家は、美和さんの実家だった。美和さんの父親が亡くなり、母親が1人になったため、小林夫妻が今から15年ほど前、埼玉県から移り住んだのだ。家の敷地内には当時、鯉の釣り堀があったという。

恨まれるような夫婦ではない

 小林夫妻と回覧板のやりとりをしていた近所の女性(90代)はこう語る。

「美和さんは郵便局でパート従業員として働いていました。役場のチラシを配るなど地域の活動にも参加し、おとなしくてええ人でした」

 光則さんの実家は、埼玉県でクリーニング店を営んでいた。境町に引っ越して以降も店に通っていたが、場所が遠いため、県内のゴミ処理施設へ転職したという。

 ケガをした次女と同級生の子どもを持つ別の住民女性は、こう振り返った。

「次女は明るく、礼儀正しい子で、きちんと敬語もできる。お兄ちゃんは地域の少年野球チームに所属していました。妻の美和さんとは何度もお会いしていますが、おとなしい方でした」

 このほかにも現場周辺を聞き込んだが、小林夫妻を知る住民たちは、いまだに信じられないといった様子でこう口をそろえた。

「誰かから恨まれるような人ではありません」

 そんな一家が襲われた日の夜は、激しい雨が降っていた。現場近くの中古車販売店に住み込みで働くパキスタン人男性(42)は、そのときの様子を、説明してくれた。

「小林さんは犬を飼っていました。いつもは吠えるのですが、その日は声が聞こえなかった。雨が降っていたし、友人とDVDを見ていたので気づかなかっただけかもしれません。現場周辺にマスク姿の不審人物がいたらしいですね。日本は安全な国だと思っていましたが、事件が起きてからとにかく怖いです」

 この中古車販売店には防犯カメラが設置されているが、事件発生時はパトカーが映っているだけで、不審人物の姿は確認されなかった。

 事件は発生から間もなく1年半が経過しようとしているが、今年に入って茨城県警の捜査員が、通学路における不審人物の有無について境町の子どもたちに尋ねていたという。住民への聞き込みは久しぶりのことで、Aの逮捕を受けた動きなのだろうか。

 はたして、Aは事件と関係があるのか。