診断結果が過剰な肥料費の引き金に!?

 健康診断で何らかの病気と結論づけられたら、治療が行われることになる。このときに引き起こされる弊害も認識しておかなければならない。

最大の問題は、『治療を必要としない軽微な変化』を誤認し治療が行われていることです。英語では『オーバー・ダイアグノーシス(過剰な診断)』と呼ばれ、世界中の医療機関で報告されています。私は端的に“過剰な医療”と称し、問題視してきました」

 CTやMRIを使って、脳の中を立体画像としてスクリーン上に映し出す脳ドック。日本はCTやMRIの保有台数で世界一を誇り、MRI1台の価格は億単位になる。資金回収するには検査回数をどんどん増やす宿命を背負う。

検査がたくさん行われれば、脳内の小さな変化まで見つかり過剰な医療を招くケースも多くなります。特に悩ましいのは、破裂のリスクが高まる脳動脈瘤(動脈の壁がこぶ状に膨らむ症状で、原因は不明)が見つかったときです」

 米国の50代後半の女性は検査で小さな脳動脈瘤が見つかり、破裂を予防するために治療を受けた。その際、医師が処置を誤ったことで障害が残り、生涯寝たきりを余儀なくされる身体になってしまった。

同様の事例は日本国内でも多数存在します。裁判に発展するケースも珍しくなく、脳ドックによる過剰な医療の深刻さを裏打ちしているといえるでしょう

 脳ドックの問題点を浮き彫りにした海外の追跡調査で、興味深い結果がある。それによると、脳動脈瘤が見つかった約1000人を何もせずに追跡したところ、5年間で3・8%の人に破裂が認められた。ただし、こぶの直径が9mmを超えていた人がほとんどだった。

「一方、予防的に治療を行った人たちを追跡したところ、1年以内に死亡した人が2・7%、また認知症や半身不随などの後遺症が残った人が9・9%いた。両者を合わせると12・6%にもなります。治療をせずに放置して破裂を起こした人よりも、はるかに多くの人が過剰な治療によって不幸な結末を迎えてしまったのです