社協で貸付を担当する職員の苦悩と悲鳴

 全国の社会福祉協議会の職員たちは、コロナ禍の一年間、これまでに経験したことのないような激務と混乱の中に身を置き、生活困窮した方々ひとりひとりに丁寧(ていねい)な対応をしたいと願いながらも適わない葛藤に苦しみながら、現場で相談業務や事務作業に追われてきた。

 関西社協コミュニティワーカー協会が1月15日から2月20日の期間に実施した『特例貸付に関する緊急アンケート』には、1,184人もの職員たちの苦しい声や葛藤が寄せられている。

《いまのところ、この特例貸付を受けて生活を立て直すことのできた世帯はほとんど把握できていない。ストレスにより休職・退職となった職員もいる。感染リスクをおかしながら、貸し付け対応をしている社協職員に対して、国や厚労省はどう思っているのか?(区社協)》

《東日本大震災のときに経験済だったので、当初は矛盾だらけの制度でも仕方がないんだと割りきっていました。しかし、長期化するとさすがに、震災のときとはまるで違うもののように感じ、延長すればするほど、相談者の自立からは程遠い状況になるのを促進しているだけでないかという、空しさが募ってまいります。先が見えないのに、返す前提の貸し付けを延々と続けるのは私たちの仕事ではないと思います(区社協)》

《コロナの影響がこれだけ長期化することを、国のリーダーや識者を含めて誰も知り得なかったのかという疑問がある。本当に困窮に喘いでいる国民の実態、そのことに寄り添おうとしている社協のワーカーたちの苦悩が、このアンケートで霞が関に届くことを期待したい(市社協)》

「貸付業務の中で感じたこと」という質問の中で、「制度の有効性への疑問」と答えた職員は実に91%にのぼった。

悲惨な未来を回避するために

 国は、現場の声と真摯に向き合わないと、そろそろまずい。

 未だかつてないほどの多重債務問題、そして自殺者の爆発的な増加はすぐそこまで来ている。これ以上の借金をさせてはならない。背負えないような負担をひとりひとりの肩に乗せるのではなく、まずは生活をしっかり立て直せるよう、国を挙げて生活保護制度を広報、推奨し尽くした上でもなお、生活保護に抵抗がある人たちがいたら、その抵抗感や利用しづらい理由を取り除くために知恵を集結させるときではないだろうか。

 もちろん、これまでに貸し付けた8,765億円はすべて免除にするくらいの覚悟で臨まないと、一年以上にもわたるコロナ禍のロスは、取り返しのつかない命のロスとなって国に跳ね返ってくる。現場からはそんな最悪の予感しかしない。

 今こそ、国中に行きわたった「自己責任」の呪いを解くときだ。そして、海の底に隠した公助の箱を引き上げ、開くときだ。


小林美穂子(こばやしみほこ)1968年生まれ、『一般社団法人つくろい東京ファンド』のボランティア・スタッフ。路上での生活から支援を受けてアパート暮らしになった人たちの居場所兼就労の場として設立された「カフェ潮の路」のコーディネイター(女将)。幼少期をアフリカ、インドネシアで過ごし、長じてニュージーランド、マレーシアで働き、通訳職、上海での学生生活を経てから生活困窮者支援の活動を始めた。『コロナ禍の東京を駆ける』(岩波書店/共著)を出版。