「あの言葉を聞いて、正直、もうお手上げという感じですね」

 ある地方都市で働く看護師は、なかばあきれぎみにそう語る。

「あの言葉」とは5月21日、国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ調整委員長が、東京で緊急事態宣言発令中のオリンピック開催の可否について、「答えは完全に“YES”」とオンライン記者会見で語った件だ。

 東京オリンピック開会式まで2か月を切る現在、国内では第4波と称される新型コロナウイルス感染症の流行が続き、五輪開催の中心となる東京都を含め9都道府県で緊急事態宣言が発令中だ。

オリンピック強行「正気の沙汰ではない」

 前出の看護師が続ける。

「第3波までは地元のターミナル駅や繁華街の人出を見て、“2週間後には感染者報告が増えそう”と同僚とささやき合い、実際、ほぼそのとおりになっていました。ところが最近の変異株による流行は、そうした予測が通じないほど感染者が急増しています。

 家族内感染も、かつては家族内で1~2人は感染を免がれることもありましたが、変異株では誰かが家庭内に持ち込めば、ほぼ全員がPCR検査で陽性。結果、私の地域ではたった1週間でホテル療養待ちの感染者が2倍に増えました。この状況下で、最低でも10万人の外国人が入国するオリンピック強行は正気の沙汰ではありません」

救急患者用のベッドをコロナ病床に転用するなどした影響で、一般診療も逼迫しつつある(画像はイメージです)
救急患者用のベッドをコロナ病床に転用するなどした影響で、一般診療も逼迫しつつある(画像はイメージです)

 首都圏の新型コロナ患者を受け入れる医療機関で働く30代の看護師も、オリンピック開催には悲観的だ。

「勤務先では行政からの要請もあり、新型コロナの重症患者向けベッドを今年増やしたばかり。第4波で受け入れられる患者が増えたのは、社会的にはいいことですが、院内はパンク寸前です。新型コロナ患者のベッドに多くの人員が割かれ、私が担当するそれ以外の患者のベッドは人手不足です。それでも新型コロナ以外の入院患者でも無症状者の紛れ込みを念頭に、従来以上に厳格な院内感染対策を取らなければなりません。

 オリンピック開催で流行が拡大した場合を想像するとゾッとします。加えて真夏の東京では、日本の気候に不慣れな外国人の熱中症患者の増加も想定されます」