親の“心の声”をくみ取ることができるか

 虐待といえば暴力行為を思い浮かべる人が多いだろう。でも実際は暴行に至らずとも虐待にあたるケースがあり、その内容は多岐にわたる。

「“高齢者虐待防止法”という法律で、高齢者に対する虐待を定義づけています。介護の資格を取得する際には、この定義を必ず勉強して学ぶのです」

●手を上げなくても虐待になる!

暴行に限らず、相手の尊厳を傷つける行為は“虐待”とみなされる。 ■排泄の失敗を嘲笑したり、それを人前で話したりして恥をかかせる ■怒鳴る、ののしる、悪口を言う ■侮辱を込めて、子どものように扱う ■高齢者が話しかけているのを意図的に無視する ■年金や預貯金を本人の意思・利益に反して使用する ■室内にごみを放置するなど、劣悪な住環境の中で生活させる ※「高齢者虐待防止法」における虐待の具体例の一部

 上記で一部紹介しているとおり、脅しや侮辱などの暴言、金銭の無断使用、ネグレクトなどまで介護虐待の定義にあてはまる。前出の厚生労働省の調査による虐待内容(複数回答)では、身体的虐待が67・1%と多いが、心理的虐待39・4%、介護等放棄19・6%、経済的虐待17・2%と、暴力以外の虐待も決して少なくない。

 家庭内の無意識な虐待であっても、被害者が外部に訴えることをすれば、介護虐待に歯止めをかけられるはずだ。しかし、そうはならない問題も潜んでいる。

「親には介護してもらっている負い目があり、文句などを強く言うことができません。『多少のことは我慢しなければ……』という思いもあります。さらに虐待を受けたとしても、加害者が自分の娘や息子だと、親心から被害を隠し黙っている人が多いのです」

 そんな親の心の声をくみ取ることができるのか。くみ取れなかったら、親はいっこうに救われない。

 介護現場では、次々と新しい虐待の報告がなされている。結城先生がケアマネジャーに聞いた事例は次のとおり。

・要介護認定を受けている親に、50代の子どもがパラサイト。食事や掃除などの家事をやらせている。
・親の年金を同居する50代の子どもが自身で使用。パート収入では足りず、年金に依存して生計を立てている。

「残念ながら、今後も介護虐待は増えていくでしょう。ゼロになることはない。ただ、虐待の増え方を緩やかにするのは可能だと思います」

 在宅介護でそれを実践するには、どうしたらいいのだろうか?