シングル介護×密室化が家庭内虐待を加速させる

 これにコロナによる密室状態が加わり、施設介護の質の低下に拍車をかけている。

コロナになってから職員の暴言が増えました。家族の面会がなくなり、緊張感が緩んでいるからでしょう。『早くしろよ』とか、『家に帰ってもオマエの面倒を見る人はいないよ』とか、イライラが募るとエスカレートしていく。言うのは特定の人ですが、聞いていて不快です」(Mさん)

 介護現場の人手不足やコロナによる密室化は、施設に限った話ではない。在宅介護でも同様の状況を招きやすいと結城先生は指摘する。

「私が介護職員の協力を得て実施した調査では、コロナを警戒し、デイサービスなどの介護保険サービスの利用を控えた人が多数いました。また、平時とは違い民生委員など地域を見守る人の目も入りにくいため、家族だけの孤立した介護を余儀なくされる。家族の場合、介護の知識や技術を備えていないのは当たり前ですよね。心や身体の疲弊が無自覚な虐待につながるリスクは高いといえます」

 特に要注意なのは、結婚していないパラサイトシングルの息子や娘が介護を担うケース。

「親と自分の1対1、密室化した自宅での介護は息苦しく、悶々とした日々を過ごすのは避けられない。かといって親戚や地域との付き合いは薄く、周囲に頼る術を持ち合わせていない。やがて爆発するのは必然の流れでしょう」

 では、家庭内で誰が介護虐待に陥るのか。厚生労働省の調査データを見てみると、虐待者の年齢は50代がもっとも多く、全体の25・9%を占める。次いで40代17・1%、60代15・9%と続く。

40〜50代は働き盛りが多い。ある日、親の介護が現実となり、仕事と介護の両立に奮闘。次第にストレスや疲労を蓄積していく様子がうかがえます

 介護される側から見た虐待者の続柄は、息子がもっとも多く40・2%。次いで夫21・3%、娘17・8%と続く。

家庭内の被虐待高齢者から見た虐待者の続柄 実の親子だからこそ、複雑な感情が生まれることも。実子からの虐待は、受け入れてしまう親も多い ※厚生労働省「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果より
家庭内の被虐待高齢者から見た虐待者の続柄 実の親子だからこそ、複雑な感情が生まれることも。実子からの虐待は、受け入れてしまう親も多い ※厚生労働省「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果より

「嫁、婿が虐待に陥る割合は5%以下と低いです。一概に言い切れないですが、嫁や婿は他人なので、機械的な介護ができて虐待する感情に陥りにくいのかもしれません。

 かたや実の息子、娘の場合は、複雑な感情が入り混じって虐待を起こしやすいのだと思います。また親との関係性がもともと悪かったりすると、介護に納得せず嫌々臨むので危険性はより高まるでしょう」

(年齢、続柄ともに虐待者の総数1万8435人における割合。令和元年度調査)