結ばれたら“よくある”不倫に

 そして最終話は、どんな結末を迎えるのか。一に福岡転勤の辞令が出たことで、麻衣子との関係性は崩れるのは間違いない。

 また、麻衣子と拓也の離婚は、ほぼ確定と言っていいだろう。実際、第7話では、麻衣子がスマホで慰謝料請求の検索をしながら「1人でやってけちゃう」とつぶやくシーンがあった。そのほかでも、一に「私は元どおりには頑張れそうもないです」「夫に傷つけられても、もう傷つけてやりたいとも思えなくて」と打ち明けるシーンもあり、視聴者感情を考えても「離婚して新たな人生を踏み出す」ことが推察される。

 じゃあ麻衣子は一と結ばれるのか……といえば、こちらは疑問符がつく。ここまでプラトニックを貫いてきた2人の魅力的な関係性が、結ばれることで“よくあるもの”になってしまうからだ。たとえば、「いったん別れるが数年後に再会して結ばれる」という連ドラでよく見る形も、この作品ではチープな印象を残してしまうリスクが高い。

 いずれにしても、最後まで2人がプラトニックのまま終わる可能性は高いのではないか。このままほぼ肉体的な接触がないままラストシーンを迎えたら、「コロナ禍にフィットするソーシャルディスタンスな不倫ドラマ」として、より印象に残る作品になるかもしれない。

 さらに言えば、距離感を保ちながら、視聴者に色気を感じさせ、背徳感を抱かせたのは、作り手たちの技術によるところが大きい。とりわけ昨年、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)を手がけた風間太樹監督の演出は、視聴者の想像力をかき立てるような見応えがあった。

俳優・森山直太朗の才能が開花

 最後にこの作品を語る上で、もうひとつふれておきたいのが、“俳優・森山直太朗”について。

 門脇麦の力はすでに各所で認められてきたが、今作では森山直太朗の演技に、より称賛の声が集まっている。森山が演じる二葉一は、さえない中年男でありながら、少年のような繊細さを持ち、それでいて慈愛を感じさせるキャラクター。さらに表情や所作の1つ1つから、枯れた色気のようなものを漂わせていて、それが「部下の妻に慕われる」という説得力につながっている。

 森山の俳優デビュー作は、2014年の『HERO』(フジテレビ系)。当時13年ぶりの続編で世間の注目が集まる中、いきなり重要な第1話の犯人役を演じた。主演の木村拓哉が「『ホントに演技は初めて?』と驚いた」というエピソードが才能の片鱗を感じさせる。

 そこから6年の月日が流れた昨年、『心の傷を癒すということ』(NHK)と『エール』(NHK)の2作に出演。ともにNHKらしい技量優先のキャストに混じって好演したが、いずれも主要キャストではなく、「森山にどこまで力があるのか」は未知数だった。現在45歳であり、俳優業への熱は本人にしかわからないが、今作を機にオファーが増えるのは間違いないだろう。

木村隆志(コラムニスト、テレビ解説者)
ウェブを中心に月30本前後のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。各番組に情報提供を行うほか、取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。