今や1クールに必ずひとつはあるといっても過言ではないのが刑事ドラマ。10月からのクールは、『相棒 season20』(テレビ朝日系)、『らせんの迷宮~DNA科学捜査~』(テレビ東京系)が放送され、前クールも『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』(日本テレビ系)、『緊急取調室』(テレビ朝日系)と、刑事モノは定番として多くの作品が制作されている。

 振り返れば、'60年代の『キイハンター』(日本テレビ系)、'70年代の『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)、'80年代の『西部警察』(テレビ朝日系)や『あぶない刑事』(日本テレビ系)などなど枚挙にいとまがなく、刑事ドラマはいつの時代も放送されている。

“取り調べ中にカツ丼を食べる”
行為は現在NG

 裏を返せば、何十年と同じ素材を扱っているわけで、キリがないほどこすられている──はずなのに、いまだに新しい刑事ドラマが登場しているのだ。一方、これだけ繰り返し扱われているということは、当然、ありがちなシーン、すなわち“刑事ドラマあるある”も豊富だ。

 例えば、ひと昔前の刑事ドラマの定番シーン「犯人が取り調べ中にカツ丼を食べる」。40代以上であれば1度は見たことがある“あるある”だが、実はこの行為、今では警察内でNGになっていることをご存じだろうか?

「カツ丼を提供したことによって自白を誘導した……つまり、利益供与と見なされるため、カツ丼はおろか、缶コーヒーやタバコなどの提供も禁止になりました」

 こう説明するのは、元警視庁刑事で警察ジャーナリストの北芝健さん。現在の刑事ドラマで取調室のシーンが殺風景なのは理由があるという。

「そもそも食事の提供は、留置管理課の管轄になります。以前は、刑事課が食事を提供していたのですが、医薬分業のように刑事の世界にも分業の波が押し寄せ、飲食に関しては留置管理課員(看守など)が担当するように。

 ちなみに、昔は実際に取調室でカツ丼を出すことが珍しくなかったので、昔の刑事ドラマでカツ丼が出てくるのはウソではありません(笑)」(北芝さん)

 このように、“あるある”のシーンが時代とともに変化するパターンもある。同様に、往年の刑事ドラマでちょくちょく見かけた「ガサ入れで発見した粉をなめて、刑事が“シャブだな”とつぶやく」シーンも時代の波に淘汰された“あるある”の代表例だ。

「本来であれば、鑑識が白い粉に液体をたらし、アヘン系なら赤色、覚せい剤だったら青色に変わる試薬という手順を踏みます。刑事がなめる行為は、やってはいけない。しかし、私が警察にいた時代の話になりますが、慣れている刑事の中には、直接なめてしまう人もいました(苦笑)。そういった特殊なケースが、ドラマの中では一般的なシーンとして描かれるケースもありますね」(北芝さん)

 ドラマである以上、映える演出が求められる。結果、実際にはありえないのに、“あるある”としてひとり歩きしてしまうケースが存在する。刑事ドラマは、あくまでフィクションだと割り切って楽しまなければいけない。