鳴き声に動揺する人も

「捕まって殺されるときに、命乞いをして仲間たちに助けを求めるんです。処分現場に立ち会うとき、あまりにも鳴き叫び、命乞いをした目をされるので心がやられます……」

 そうした理由からキョンを捕りたくないというハンターも少なくないという。

狩猟体験で話す石川さん(中央)。処分時にはキョンの悲痛な叫びに涙ぐむ人も
【写真】冬になり里に降りてくる「キョン」、つぶらな瞳で見つめられて

「その叫びは心の底をえぐってきます。私のところでは狩猟体験でキョンの捕獲や処分に立ち会ってもらいます。キョンは命の循環を自らの命で伝えてくれる存在としてもとても価値がある。私たちの普段の暮らしの中でどんな動物が犠牲になっているか。

 キョンは知らない動物かもしれませんが、普段僕たちが食べる肉も一緒。その肉が僕たちの細胞ひとつひとつを構成してくれています。この細胞が彼らの命だったんです。それを全身から感じさせてくれるのがキョンの叫びです」

 石川さんは訴える。

「キョンは99%が殺されて捨てられています。古来、日本人はとても世話になってきたのに、厄介者、気持ち悪い動物と蔑まれており、敬意が一切ない。来たくないのに日本に連れてこられて逃げ出して増えただけです。これまで誰もキョンの価値を知らずに殺して捨てるだけを10数年も繰り返してきたんです」

 鶏も豚も牛も、普段は何も気にすることなくその肉を食べている日本人には命の尊さを教えてくれる生き物なのだ。

「キョンの狩猟体験を学校の課外授業や体験学習に取り入れてもらいたいと思っています。特に千葉県の子どもたちにはキョンや身近な自然や生き物のことを知ってほしい。僕たちはどんな動物と共存しているかは知らないんです。そういう動物たちが自然を育んでくれているんです」

 人間のエゴに振り回されている動物、キョン。私たちに命と向き合う必要を訴えかけているのではないだろうか。


《PROFILE》
石川雄揮さん ◎Hunt+代表。報道カメラマンを経て、猟師として地域おこし協力隊に。現在は戦場などでの経験を背景に千葉県いすみ市でキョンなど野生動物や森の生態系を通じて「命」や「生きる」ことの本質を伝える狩猟・自然体験を提供。純国産キョン革を活用した商品開発や販売なども行う

初出:週刊女性2021年11月2日号/Web版は「fumufumu news」に掲載