社員の幸せはいずこへ

 同社にはある社訓がある。

「“社員の幸せを求めて”とあるんですが何を言ってるんだと思ってしまいます。労働時間が長いため家庭を顧みられない、給与が低いなどの事情から離婚に至った社員も多いそうです」(前出・大森さん、以下同)

 組合は長時間労働や労災隠しなどを、神奈川県の労働基準監督署に申し立てを行っている。

 だが環境を改善するために立ち上がった組合員たちに会社の風当たりは強い。

「会社の弁護士は“宮前支社に労基署から長時間労働の指導が入り、今後は全社で長時間労働がないようにする”と言っています。ですが組合員以外の社員は変わらず80~90時間の残業。組合員だけが残業が極端に減りましたが同時に引っ越し現場も割り振られないので給与の支給額も減り、手取り20万円以下の組合員もいます。

 それに組合員は組合員だけで仕事をさせられたり、担当エリアもはずされたりとか、あからさまな“組合差別”を受けています」

 この状況が続けば退職もやむをえない、と考えている組合員もいるという。

子どもが生まれたばかりの組合員がおり、いくら早く帰れても20万円に満たない手取りでは生活できません。社員は副業禁止なのでバイトもできない。これは僕たちに死ねってことなんですかね。会社は僕たちを解雇するのではなく、自主退社をうながそうと圧力をかけているんです

 こうした状況を尋ねるため同社に取材を申し込むと、

「交渉中のため取材は控えさせていただいております」

 それ以上の回答は得られなかった。ただ、社員の幸せを願う社訓に反しているのではないかと質問すると、「それはないです」と本社の担当者は反論の姿勢を示した。

 そのさなかの11月11日。同組合とサカイ引越センターとの第2回団交が行われた。

 給与や労災隠しなどについて議論されたというが……。

「会社側からは残業しないことで現場が減り、落ち込んだ給与への補償はない、と言われました。14万でも頑張ってもらわないと、と……。歩合給が7割の現状で僕たちもこの給与額では生活が厳しい。せめて手取りで20万円はもらえたら……」

 組合では今後も給与の改善などを求めて会社側と話し合いを続けていくという。

 さらに、全国からも組合に加入したいとの問い合わせが増えているという。

「PANDA BAMBOO LEAF JAPAN(通称・笹の葉会)という支援団体も立ち上がり、活動を支えてくれています。厳しい状況ですがみんなで乗り越えたい」(前出・組合関係者)

 鷲見弁護士は訴える。

「経営者はきちんと法律を守らなければなりません。8時間労働でちゃんとした金額の給与が支払われ、家族との時間や自分の将来を考える時間を過ごせるように、企業も変わらなければなりません。労働基準法を守るのは当たり前。ですが、それすら守っていない企業は、その規模を問わず多いのが現状です」

 そして大森さんも願う。

「お客様に直接“ありがとう”って言ってもらえるこの仕事にやりがいは感じています。でも1日に何件も引っ越し現場が入るとやっぱり集中力は切れていきます。トラックの運転、大きな荷物の運搬、常に事故やケガと隣り合っているのも僕たちの仕事です。ほかの社員のためにも会社の方針を変え、一緒に仕事を続けていきたいんです」

 若者たちのまっすぐな眼差しに経営者たちは何を思うのだろうか。

 まだまだ「勉強」しなければならない点が山積みのようだ。