世界選手権での2度の優勝やグランプリファイナル4連覇、そして冬季五輪2連覇と、数々の実績を積み上げてきた羽生は、どんな人間になろうとしているのか。

「多くの人と出会い、さまざまな体験をしたことで、成長した今日の彼があります。日本中のファンの方たちから応援を受けた以上は、感謝の気持ちを持って、それをお返ししていこうと思っているのではないでしょうか」

 と話すのは、小学2年生から羽生のコーチを務めた都築章一郎さん。感謝の気持ちを持ち、応援に応えようとする姿勢には感心するという。

海外遠征翌日にも登校

 その姿勢の基礎をつくったのが、羽生が在籍していた東北高校での指導だった。東北高校フィギュアスケート部の顧問を務める佐々木遵さんが明かしてくれた。

「当時の担任の先生が“成功しても失敗しても、ちゃんと学校には来なさい。大会の次の日だからと学校を休んでいたら周りの人から応援されなくなってしまう”と指導していました。身近にいる人が応援せず、外の人にはちやほやされて、という状況になってしまうと、人としての中身が薄くなってしまいますから。それを自分でも理解して、海外での試合から帰ってきても、次の日にはできるだけちゃんと学校に来ようと本人も気をつけていました」

 ただ登校するだけではなく……。

前もって授業の準備ができていたり、出席できないときもきちんと自分で学習していたり、常に先を読んで行動していて、高校生離れしているように見えました。もちろん、そういう部分ができていないとフィギュアの結果にもつながらないと思いますが……。ご家族から“きちんとやらないといけない”と言われていたのかもしれないですが、それでも、やるかやらないかは自分次第ですから」(佐々木さん)

 そして、2度の五輪王者となり、人間性にさらに磨きがかかる。2019年7月、前出の山田さんは羽生の成長を肌で感じたという。

「北海道地震のお見舞いとして私のスケート教室に来てくれました。子どもたちと同じ目線で話すだけでなく、金メダルまで触らせてくれて……。私が“(金メダルは)血と涙の結晶なんだから簡単に触っちゃダメ!”と子どもたちに言っても“いやいや、全然大丈夫なので触ってください”って。2度もオリンピックの金メダルをとっているのに、“自分は特別なんだぞ”という感じはみじんも出さず、自然に受け答えしていたように見えました」