会社の社名入りの軽自動車でデートに現れた男性

 都内在住のみえさん(42歳、仮名)は、都心にあるメーカーに勤めています。お見合いをして交際に入ったあきおさん(42歳、仮名)は、新宿から急行で1時間半かかる地方都市に住んでいました。

 お付き合いをしていくには距離がありましたが、同い年で年収もしっかりあり、見た目もハンサムで話も面白いあきおさんは、みえさんにとって魅力的な男性でした。

 いつもは、お互いの中間地点で会ってデートを重ねていたのですが、三連休の週末に「僕の地元を見に来ない? ドライブしようよ」と、あきおさんに誘われました。会うたびに彼のことを好きになっていたみえさんは、彼が生まれ育った場所を見てみたかったし、地元を案内したいというのは交際を前に進めたいという気持ちの表れだと思い、嬉しくなりました。

 そして、週末に彼の地元駅に降り立ちました。駅前の指定された場所で待っていると、会社名が車のボディに書かれた軽自動車がやってきて、みえさんの前で止まりました。運転していたのは、あきおさん。パワーウィンドウを開けると、言いました。

「お待たせ! 乗って」

(えっ、まさか、この車で今日は、市内を案内されるの?)

 みえさんは、心の中でそう思いましたが、ひとまず助手席に乗り込みました。走り出したあきおさんは、明るい声で言いました。

「市内の名所を回って、お昼は地元で有名な蕎麦懐石のお店があるから、そこに行こう」

 楽しそうにしているあきおさんに、みえさんは聞きました。

「これ、会社の車でしょう?」

「そうだよ。今日はいろいろなところを案内したかったし、距離を走ると思ったからこれで来たんだ。ガソリン代が浮くし」

「浮くって、ガソリン代は会社のお金でしょう?」

「そう経費。営業であちこち走り回っているから、私用で使っても会社にはバレないよ」

 悪びれずに言うあきおさんに、(それって、業務上横領じゃない)と、ツッコミを入れたくなりましたが、せっかくのデートの楽しい雰囲気を壊したくなかったので、ひとまずそこは聞き流しました。

 あきおさんが通っていた小学校や中学校を案内してくれたり、市内の観光スポットをめぐったり、道の駅で買い物をしたり、楽しい時間を過ごしました。また、お昼に食べた蕎麦懐石もとても美味しく、大満足でした。社名の入った軽自動車以外は。

 冬は陽が落ちるのも早く、あたりがだんだん暗くなってくると、あきおさんは人気のない河原に車を止めました。そして、自分とみえさんのリクライニングシートを倒すと、横になったみえさんの身体におおいかぶさり、触ってきたのです。

 みえさんは心の中で(うそ、こんなところで)と思いました。すると、あきおさんは、耳元で囁きました。

「こうしたかったでしょう?」

 みえさんは、あきおさんが好きだったので、最初は我慢していましたが、さすがに服を脱がされそうになったときには、「ここでは、やめて」と、激しく抵抗をしましした。

 結局、その後、駅まで送ってもらい、みえさんは電車に乗ったのですが、行きの電車の中ではあんなにウキウキしていたのに、帰りの電車の中は複雑な気持ちになっていました。

「会社の車でデートにきて、ガソリン代を浮かす。ホテル代をケチッて車の中で済ませようとする。このまま交際を続けていっていいのかしら」

 結局下した答えは、“交際終了“でした。みえさんは、私に言いました。

「コミ力があって、話も面白い。結婚相談所にはいないタイプだったので、好きになりかけていましたが、彼の地元を案内された日に、彼のドケチな本質が見えた気がしました」