リトマス試験紙となった扶養照会の運用変更

 2021年3月30日に厚労省から各自治体福祉事務所に対して発出された扶養照会の運用変更で何が変わったのか。

 一番の改善は、これまで申請者の意思とは無関係に、問答無用で行われていた扶養照会が、2021年4月1日からは、拒んだ場合にその理由について「特に丁寧に聞き取りを行い」、照会をしなくてもよい場合にあたるかどうかを検討するという対応方針になったことだ。また、扶養照会を実施するのは「扶養義務の履行が期待できる」と判断される者に限る、という点が明確になった。

令和3年3月30日「『生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて』の一部改正について」

 これにより、親族に問い合わせがいくことを拒否したい人は、申請時に「拒否したい」という意思を示し、一人ひとりの親族について「扶養照会をすることが適切ではない」または「扶養が期待できる状態にない」ことを説明すれば、実質的に照会を止められることになったのだ。

 そして、人によっては解釈が変わるこの通知内容は、自治体の福祉マインドを図るリトマス試験紙になってしまう。「しなくていい」は「禁止」ではないのだから「してもいいはず」と、申請者の気持ちを押さえつける底意地の悪い職員や自治体も出てきてしまうのだ。

 厚労省もそのあたりはうっすら予想しているのか、わかりの悪い職員でも少しは良心的な運用ができるよう、扶養照会を「しなくてもよい」とされる項目をズラズラと並べている。

 Aさんから聞き取った親族のご事情の場合は、「70歳以上の高齢者である」「明らかに援助してもらえない事情がある」「主婦、失業中など、主な稼ぎ手ではない」「これら親族に扶養を求めることが、明らかに有害である」など4つも扶養照会を省いてよいとされる項目に当てはまる。

 さて、ここで気になるのが扶養実績である。

 相談者がそれほどまでに嫌がっていること、そして厚労省がしなくてもいいと定めてくれた扶養照会を、驚くほどの熱意をもって強行した杉並区の扶養実績はどんなものだろうか?

 立憲民主のひわき岳杉並区議が区議会第一回定例会(令和3年2月16日)の一般質問で実績を質したところ、保健福祉部長の答えはこうだった。

「扶養照会から親族による扶養につながったケースについてのお尋ねですが、実際につながったケースはほとんどございません」

 扶養実績については、中野区の共産党区議が区議会事務局を通じて調査した、令和元年度東京23区の扶養照会数および扶養実績一覧で、特に金銭面での援助数や、扶養照会の実施数が多い自治体に注目してみたい。

令和元年度東京23区の扶養照会数および扶養実績一覧
令和元年度東京23区の扶養照会数および扶養実績一覧
【写真】扶養照会に関する「申出書」と「添付シート」

嫌がらせには役に立つ

 杉並区と同様、他区でも、他県でも、実際に親族に援助の可否を問う通知を送ったところで、援助(特に金銭的な)につながる例は、トホホと思うほどに少ない。都内でも1%に満たないほどで、中には0%なんていう自治体もあった。

 都市部より恥の文化が色濃く、家族のつながりが重んじられる地方を加えた全国となると、少し上がって1.45%となるが、継続的に援助を続けられる世帯がどれくらいあるだろうか。

 生活困窮した人たちを制度から遠ざけ、しかもほぼ結果が出ない扶養照会に、ただでさえ仕事に忙殺されている職員の労力(人件費)とバカにならない切手代をつぎ込むのはなぜなのだろうか。一般企業だったら考えられないことだ。

 そこに使われているのが、私たちの税金だからだろうか? それともお金の問題ではなく、生活困窮してほかに頼る者もなく助けを求めてやってきた申請者に対して、「あなたに決定権はない。決めるのはこちらだ」と、権力を誇示できる最強な武器を手放したくないのだろうか?

 その意識から出た「ただでお金もらっているわけじゃないんだから」というセリフなんだろうか? あまりにも、あまりにも情けない。