お見合い結婚で歯科医の夫と結婚。医師の妻として、母として、目立たぬように求められた「役割」を全うした20年―。だが、40代で離婚を決意。一度は諦めた夢、留学に再挑戦する。多くの「縁」がつながり、たどり着いた第二の人生が「ケーキ職人」だった。「人生はシナリオどおりにいかない」と語る平野さんのパワフルな開拓ライフに迫る。

人生シナリオどおりにはいかない

 甘酸っぱい紅玉(こうぎょく)がたっぷり入ったビッグアップルパイにサワークリームアップルパイ、自家製カスタードが入ったカスタードアップルパイにメープルアップルパイ……。甘い香りに包まれたここは、アップルパイを中心にアメリカンベーキングのパイやケーキを販売する『MATSUNOSUKE N.Y.』。

撮影/伊藤和幸

 東京代官山にある店内にはカフェも併設され、材料を厳選し、りんごをひとつひとつ人の手でカットしたこだわりのアップルパイをいただくことができる。食のセレクトショップ『ディーン&デルーカ』でも販売され、殿堂入りした人気商品だ。

 オーナーの平野顕子さん(73)は、45歳で離婚したのを機に一念発起。アメリカの大学へ留学し、現地で出会ったお菓子を今後の生きる糧にしようと決意。帰国後、お菓子教室からスタートした『松之助』を一代でここまでにした人物だ。

撮影/伊藤和幸

 プライベートでは、60代でひとまわり年下のウクライナ出身の男性と再婚。よく通る声で朗らかに話す平野さんからは、陽のオーラがあふれ出ている。

「よくこんな人生を歩んできたなと思います。ひとつ言えるのは、人生はシナリオどおりにはいかないということ」

 現在、ニューヨークと日本を行き来する2拠点生活を謳歌する平野さんだが、20代~40代までの約20年間は絵に描いたような専業主婦だった。