「自分の居場所は隠して介護施設へ」「親が死んだら連絡を」と望む子ども

罪悪感なく依頼する人がいる一方で、良心の呵責や世間体に悩む人も(※画像はイメージです)
罪悪感なく依頼する人がいる一方で、良心の呵責や世間体に悩む人も(※画像はイメージです)
【図解】“家族代行サービス”利用の流れと目安のトータル費用は?

 サービスを始めたきっかけは、自身の両親の介護で、悩み苦しんだ経験から。

「子どもだけが抱えるのではなく、誰かに助けてもらえるような代行サービスの必要性に思い至ったんです」

 介護には、これが正しいというマニュアルはない。介護施設選び1つとっても、初めてではわからない点が多く、生活の多くの時間や気持ちを割かれることになる。

「誰かの手を借りることは、決して悪いことではない」

 LMNでは、死後までのコンサルティングと生活サポートを依頼した場合、費用の目安は約100万円だ。介護施設を探すだけでなく契約から入居の手伝い、医療機関や行政との連携、亡くなったときの葬儀社への依頼、遺品の整理まで。家族に代わって幅広く手配、対応してくれる。

親が健康なうちから介護放棄するケースも

 相談者のなかには、10年以上連絡を取っていなかった親の介護が、親戚や行政からの知らせで突然降りかかってきた人もいる。逆に、親との関係に苦悩を抱えながらも“世間の目”を気にして関係を断ち切れず、つかず離れず関わり続けてきた人も。いずれも依頼時には、介護から葬儀までお任せする“家族じまい”を選択することが多い。

「親の介護が必要になる前に、予防線として相談に来る方も増えています。いつか自分に責任が降りかかることを想定して、不安を感じている40代の方も多い。80代の親が50代の子どもを経済的に支えるという“8050問題”が取り沙汰されていますが、老親を取り巻くのは“7040問題”だと感じます。子どもに面倒を見てもらえると安心している70代の親が、気づけば40代の子どもにいわば“介護放棄”されているというケースです」

「親を手放したい」依頼内容の例

「自分の居場所は知らせず、親を介護施設に入れてほしい」

「同じ市内に住んでいる親から離れたいので、親が入る介護施設をなるべく離れた場所に、という指定もありました」(遠藤さん、以下同)

「絶縁状態の親の葬儀・供養まで任せたい」

「葬儀ののち、家族なしでも納骨ができるよう、3時間かけてお寺を説得したことも。古くからの慣習があるだけに、理解には時間がかかります」

「介護施設からの連絡やトラブル対応をしてほしい」

「介護は施設に入ればおしまいではありません。むしろ入ってからが手間がかかる。施設からの電話に対応するだけでなく、現地に赴く場合も」

2.5人称の距離感で家族の代わりを務める

遺品整理や相続に関する手続きなどの、死後事務も手放すことができる(※画像はイメージです)
遺品整理や相続に関する手続きなどの、死後事務も手放すことができる(※画像はイメージです)

 業者側が老親の世話を代行するのにも、それぞれの事情によってハードルがある。

 親の介護や医療で関わる行政や病院、介護施設からは、理解を得られず業務が滞ることも少なくない。“なぜ子どもが来ないのか?”と聞かれることは日常茶飯事。まだまだ“親は子が面倒を見るのが当たり前”という価値観は堅固だ。

 また、長年問題を抱えてきた親子の間に立つことは、メンタル的な疲弊を伴う。

「親子関係が破綻している事情を知っていても、葬儀や納骨に姿を見せる家族もないと、複雑な気持ちになるのも正直なところです。また、共依存の親子のケースでは、“すべて任せる”と言いながら関係を断つことができず、親にコントロールされ続け介護の現場を混乱させることも」

 家族の代行を行ううえでは、感情移入しすぎず、かといって“第三者”ほど遠くない、“2.5人称”の距離感で寄り添うことが大切だと考えている。

「親から遠く離れたいという要望があれば遠方で介護施設を探しますし、親からの連絡を一切断ちたいという要望があれば、子どもである依頼主の連絡先は誰にも漏らさないようにします」

 それでも、“代行業者”を挟んだ親子関係は終わりだとは思わない。

「“2.5人称”の位置で私たちがクッションとなり、親子が少し離れることが大事だと思っています。距離を置いて親や自分のことを考える時間を持つことで、親子関係が改善することも少なくありません」