プライドやキャリアより、頭のやわらかさが大事

 小室さんが感じたように、定年後のシニアの求職でぶち当たるのが、自分の希望と現実のギャップだ。それは言い換えれば、自分が感じている自分の価値と、世間が見ているシニアの価値のギャップともいえる。

 シニアの仕事探しを支援している東京しごとセンターのシニアコーナー相談員の内野貴世子さんは、「そこをうまく乗り越えられるかどうかが分かれ目」だという。

「第一線で働いてきたキャリアや、管理職のポストに就いていた経歴があっても、それが必ずしも歓迎されるわけではなく、生かせる職種も多いとはいえません。収入が希望に満たないこともほとんどです。最初は多くの人がその現実にショックを受けます」

 シニア向けの転職サイト、マイナビミドルシニアのマーケティング部・篠崎護さんも、中高年以降の職探しの厳しさを指摘する。

「50歳を越えると希望がかなうのは専門性の高い職種だけ。年収1000万以上の方が55歳で早期退職して200万~300万円減を覚悟して探しても、実際は年収500万円以上も厳しい。60歳以上になるとパートやアルバイトの求人がほとんどです。

 また、せっかく仕事を見つけても奥さまに『そんな仕事……』と言われて就職自体をあきらめる人もいます。でも、働くことでやりがいを感じられたり、健康を維持できている人もいるので、働くことの意味を夫婦で考えるいい機会にしてもらえればと思います」

 シニアに職がないわけではないという。

「いままでの価値観を見直して広く目を向ければ、管理人や警備、清掃など、シニア男性に求人が多い職種も多数あります。偏見を捨て、新しい仕事への意欲を持つこと。

 それには奥さまの理解と協力が後押しとなります。そこがうまくいけば70歳以上でも仕事を継続できる人が多いです」(内野さん)

 夫を働かせるためには妻のほうも、もうひとふんばりせねばならないようだ。

65歳以上で働いている人は加速度的に増加しており、2020年に900万人を突破し、過去最多となった(出典 総務省「労働力調査(基本集計)」2021年度)
65歳以上で働いている人は加速度的に増加しており、2020年に900万人を突破し、過去最多となった(出典 総務省「労働力調査(基本集計)」2021年度)
【写真】総務省「労働力調査」グラフで見る働くシニアの急増推移

シニア男性に多い求人はこの3つ!

【清掃】 時給の目安:1050~1200円

 ビルやマンション、商業施設などの建物の清掃がメイン。特にマンションは共用部分の清掃のみの場合が多く、初心者でも採用されやすいうえ仕事の難易度も低い。清掃する場所で勤務時間は変わり、短時間での仕事も多いので自分の時間を確保したい人にはおすすめ。

【警備員】 時給の目安:1050~1200円

 ひと口に警備といっても、シニア採用の多くはビルや商業施設での「施設警備」と工事現場や催事などでの「誘導警備」で、ほとんど危険性はない。規律を守るまじめさが買われる職種で、チームでの交代勤務が一般的なので同世代の仲間づくりもできそう。

【管理人】 月給の目安:15万~23万円

 ほとんどが分譲マンションや賃貸マンションでの管理業務。業務は多岐にわたるものの、住人とのコミュニケーションをとりながら務めるサービス業なので、人生経験や人柄が重視され、シニアにはぴったりの仕事。平日8時半~17時前後のフルタイムでの雇用も多い。

「最初から希望する人は多くありませんが、採用率は高く、やりがいのある仕事ですよ」(シニアの職探しの専門家・内野貴世子さん)