その上、羊水検査はお腹に針を刺して羊水を採取する検査で、流産の確率が約0・5%と低いながらもリスクを伴い、受けるか否かの決断も必要だ。仮に羊水検査に進んだとして、改めて陽性と確定診断が下されたらどうするか、という問題もある。また、羊水検査に至る期間は妊婦にとって非常につらく、精神的に追い詰められてしまう人も少なくないという。

「羊水検査は羊水が増えてからでないとできません。検査ができるまでの期間、妊婦さんが悩んでやせてしまったケースも。わからないことに対するつらさというのがあって、それはもうすごいストレスでしょう。私が取材した方の中には、羊水検査を待つ間に思い詰めて、一時はお腹の赤ちゃんと心中を考えたという妊婦さんもいたくらい」

ダウン症の子どもへの教育も変化

 さらに出生前診断という言葉が一般に広く浸透している今の時代は、夫婦間の問題だけではすまない側面もある。

「今は祖父母世代も出生前診断の存在を知っているので、親御さんも口を出してくる。陽性判定が出たら産まないほうがいいと家族から言われる人も多く、周りの言葉でボロボロになる方もいる。家族関係にも差し障りが出てくるということで、妊婦さんの中には“検査を受けても親には絶対に言わないでおく”という方もいます」

 羊水検査でダウン症と診断され、産むか、産まないかの決断をここで下す人は多い。最終的に中絶を選ぶ人は約9割。出産を選ぶ妊婦は多くはない。

胎児の形態異常はエコー写真で見つけることができる(写真はイメージ)
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「ダウン症の子どもが生まれたときに、“どうして検査をしなかったの?”“検査をしておけばよかったのにね”という言動に出くわしてしまうような生きづらさを防がなければいけません」

 このように、新型出生前診断には優生思想や障害者差別の助長、ひいては優生保護法の復活につながるといった懸念もつきまとう。医療に倫理や人権が複雑に絡み合う難しい問題で、検査については現場の医師の間でも賛否が分かれると聞く。では、新型出生前診断を行う意義とは─?

「新型出生前診断により準備ができた方もいます」

 産む決心に至るには、心の準備と環境の準備、医学的な準備、何より人とのつながりを持てるかどうかが大きいと河合さんはこう続ける。

「例えば日本ダウン症協会に連絡をとってみるというのもそのひとつ。最近はダウン症の方の教育も変わってきていて、保育園に預けることもできれば、小学校に上がると学童保育に預けることもできる。だからお母さんも仕事を辞めずにすむなど、いろいろな話を聞くことができます」