また大きな病院に転院するとダウン症に精通した小児科医がいて、心臓疾患など関係が深い病気を超音波検査でじっくり診てくれるので、事前に治療計画ができることもメリットだという。

「そのほか福祉の専門家やカウンセラーさんなど、さまざまな職種の方が多方面からケアしてくれます。陽性といわれた当初はもう本当に大変な精神状態になるけれど、そういう過程を踏みながらだんだん勇気が湧いてきて、出産に希望を持つようになった方を私自身何人も見ています」

必要なのは「どちらに転んでも大丈夫」という気持ち

 一方、出生前に検査を受けていなかったことで、深刻な事態に陥ってしまうケースも。

「生まれたばかりの新生児が救急搬送されてきた場面に出くわしたことがありますが、お父さんが衝撃を受けて真っ青な顔をされていて。生まれるまで疾患があることを知らなかったのかも。もし出生前に検査を受けていれば、何らかの準備ができていたかもしれません」

 出生前診断のニーズに関するアンケートを見ると、「染色体異常」が高齢出産のいちばんの不安要素に挙げられている。事実、ダウン症児の生まれる確率は35歳で338分の1、40歳で84分の1、45歳で30分の1と、年齢が上がるにつれ上昇する。ただしデータというのはあくまでも統計上の数字だ。

「100人中99人は異常がないと聞いて安心できる人もいれば、1%の危険があると聞いて怖くなる人も。“0・1%でも怖い”と表現された妊婦さんもいました。安心できる数字というのは人によって違うんです」

陽性の的中確率は約97%だが“絶対”ではない
陽性の的中確率は約97%だが“絶対”ではない
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 日本医学会は、新型出生前診断について“必ずしもすべての妊婦が受ける検査ではない”との考えを示している。検査をするか否かは妊婦の自由で、希望者はまず遺伝カウンセリングを受け、そこで不安が解消されなければ新型出生前診断を受けることに。

 今春の新指針導入に伴い、認承施設や各種相談機関の増加など、サポート体制も強化されつつあり、受け皿は増えた。今後は新型出生前診断のさらなる浸透が予想されるが、河合さんは「検査の結果、出産が簡単なことではなくなるかもしれない」と安易な検査には警鐘を鳴らす。

「ネットには検査を受けて安心しようというイメージの情報が多く、それらは“陽性にならないこと”が前提にされている。確かに多くの人は陰性となるけれど、そうならない人もいるんです。いずれにせよ検査を受ける前に、どちらに転んでも大丈夫、という覚悟はある程度しておいたほうがいいでしょう」

 高齢出産に限らず、母体が若くても染色体異常やそのほかの疾患は起こりうる。検査により厳しい現実に立ち向かうことになる可能性は誰にでもあり、まずはその認識を念頭に、正しい情報を持つことが重要な一歩となりそうだ。


かわい・らん 出産ジャーナリスト。東京医科歯科大学、聖心女子大学、日本赤十字社助産師学校の非常勤講師。著書に『出生前診断―出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』(朝日新書刊)など