「同作のラストシーンを撮影した際、1~2回でOKが出たものの、李監督の顔は『全然OKじゃなくて』、その後、誰もいないところに呼ばれ、「すごく冷静なトーンで『この映画壊す気?』って言われた」といいます。広瀬はその時の感情を『もはや悔しいというより恐怖でした』と表現していました。しかし、そうした厳しい指導も、『全てが愛情』と、ウェブメディア『シネマトゥデイ』のインタビューで総括しています」(雑誌編集者)

 『許されざる者』(2013年)に、渡辺謙扮する主人公・釜田十兵衛とともに賞金首を追う青年を演じた柳楽優弥は、李監督からOKが出ず、1カットに100テイクを重ねることもあったと、2021年放送の『A-Studio+』で告白している。

Netflixはハラスメント研修を

「渡辺ほか、柄本明佐藤浩市といった大御所俳優の前で、何十、何百テイクもやったという柳楽は、『結構やっぱ怖かったですし、俺、このまま死ぬのかな(と思った)』『緊張して震えてるのか、寒くて震えてるのか、わからないぐらい』と、かなり精神的に追い詰められていたようです。それでも柳楽は、ウェブメディア『MOVIE WALKER PRESS』のインタビューで、『厳しくしてもらえる現場にいられることが幸せだと強く思いました』と語り、李監督に感謝しているといいます」(同・前)

 中谷、小松、広瀬、柳楽の例からもわかるように、「俳優が語る監督の鬼指導エピソードは、“何度も怒鳴られ、けなされても、必死になって食らいついていくことで、役者として一皮むけることができた……”というパターンが定番」(同・前)だという。

「しかし、そのような美談によって、監督からの言動に苦しめられた俳優やスタッフの声がかき消されてしまう危険性もある。仕事中に罵声を浴びせられたり、『死ぬのかな』とまで追いつめられるというのは、やはり一般社会から見たら、あまりにも異様な光景といえるのではないでしょうか。

 最近では、Netflixが、現場でのハラスメント行為を防止するため、全ての関係者に『リスペクト・トレーニング』という研修を課すようになっています。ハラスメントに関する基本的な考え方を学ぶだけでなく、参加者が意見交換を行いながら、『何が問題となるのか』を共有していくという取り組み。今後、『リスペクト・トレーニング』を取り入れる作品は増えていくものとみられます」(前出・映画ライター)

 日本映画界は、ハラスメント体質から脱却できるのか……今こそ、膿を出し切るタイミングなのかもしれない。