もちろん今の若者だって友人関係は大事にしている。だが、その関係が切磋琢磨する状態に昇華することは滅多にない。たとえば部活で、毎日きつい練習に汗を流したとしても、「お前、将来何やりたいの?」と聞くことは稀だし、当然、自ら語って聞かせることも少ない。気恥ずかしさが先に立ち、無難な会話から抜け出すことはない。切磋琢磨する友人関係が欲しいと思っている若者は一定数いるが、決して自分から仕掛けることはない。こういった言動はその場の空気を変えるが、それは今の若者が最も恐れる行為の1つだ。

今の若者に試行錯誤を期待しても…

 第4位は「まずはやってみなさい」「できあがったら持ってきて」だ。

 この言葉をかける背景には、「若いうちは試行錯誤が必要だ。そうすることでしか自分を成長させることはできない。そうやって自分の型を作っていくことが大事だ」という考えがある。大変すばらしい考えだし、そのとおりだと思う。

 しかし、そのとおりと思う言葉を発することが、必ずしも意味を持つとは限らない。「やってみなさい」もしかり。そもそも、今の若者たちは、幼少のころから試行錯誤して成長した経験がないし、これからもそんなものは求めていない。10代になってからも、試行錯誤する前から「何をどうすればいいか」が書かれた“手順”が何かしらの形で与えられる。与えられない場合は、ググればいい。必ず”答え”が載っている。

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 そういう意味では、極論すれば、もはや日本の若者の辞書からは試行錯誤という言葉は消されているのかもしれない。したがって、「できあがったら持ってきて」と若者に言った後の顛末は次の3パターンに集約される。

 1つ目は、どうしていいかわからずに、期限ギリギリになって「よくわかりませんでした」と言ってくるパターン。その間、あなたはとてもジリジリするはめになる。2つ目は、ネットの情報をコピーしてくるパターン。私などは大学で教えている立場上、著作権侵害については目を光らせているつもりだが、残念ながらすべての大学でそうしているわけではないらしい。

 3つ目は、同期や友だちに相談するパターン。「みんなでやりました」と言って当たり障りのない結果を持って来る。今の若者は60~80点を取ることは得意だ。いずれにしても、「今のうちに試行錯誤を促そう」というあなたの親心は打ち砕かれる。

(後編に続く)


金間 大介 (かなま だいすけ)Daisuke Kanama
金沢大学融合研究域融合科学系教授、東京大学未来ビジョン研究センター客員教授
北海道生まれ。横浜国立大学大学院工学研究科物理情報工学専攻(博士)、バージニア工科大学大学院、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、文部科学省科学技術・学術政策研究所、北海道情報大学准教授、 東京農業大学准教授、金沢大学人間社会研究域経済学経営学系准教授、2021年より現職。主な研究分野はイノベーション論、技術経営論、マーケティング論、産学連携等。著書に『イノベーションの動機づけ:アントレプレナーシップとチャレンジ精神の源』(丸善出版)、『イノベーション&マーケティングの経済学』(共著、中央経済社)など。