かつてうそをつきまくって営業成績をあげていた不動産営業マンの永瀬。彼がなぜうそをついてきたのかは5月17日(火)放送の第7回で描かれ、永瀬の共感度はさらに上がったことだろう。

 もともとは真面目だった永瀬が世間の荒波のなかで生き抜くために、人を人と思わず騙して生きるようになってしまった。ところが祠のたたり(?)によってうそをつこうとするとビューッと強風が吹いてきて、本音を漏らしてしまう。うそをついて高額物件の問題点をぼかして販売できていた彼が、うそがつけなくなり、自身の思惑や物件の問題を他者に明かしてしまうのだが、結果的にそれが功をなし、良き人間関係を築き、永瀬は成長していく。

 うそをつかなくても自身の幸福を獲得することができる物語はひじょうに道徳的で、「舌切雀」や「金の斧銀の斧」などに代表される昔ばなしの世界であり、令和の今、大人がそんな寓話を観て楽しいかと迷うところだが、これがなんだかホッとするのである。このドラマが多くの支持を受けている理由は現実世界にあまりにうそやごまかしが蔓延しているため、フィクションの世界では、ありえない誠実さを楽しみたい、そんな人が増えているからではないだろうか。

リアルすぎる描写が避けられてきただけに

 ドラマでリアルな気苦労が描かれるとしんどいと言われて久しい。2018年頃からその傾向が顕著になってきたように筆者は感じている。例としては新垣結衣が主演ドラマ「逃げ恥(逃げるは恥だが役に立つ」(TBS)が大ヒットしたあと、2018年に主演した「獣になれない私たち」(日本テレビ)に対する視聴者の反応である。職場の問題がリアルすぎて、悩むヒロインに視聴者が自分を重ねしんどい、ドラマで日常のようなものを見たくないという声が多くあがった。

 新垣結衣と脚本家・野木亜紀子という「逃げ恥」の黄金コンビにもかかわらず、内容あるいは描写の仕方によって視聴者の反応は極度に違ったのだ。以降、テレビドラマでは日常のしんどさをリアリティーをもって描くことを避ける傾向が強くなっていく。登場人物の生きる問題はできる限りあっさりと描写されるドラマが増えていったのだ。

「正直不動産」はその問題点をうまく回避している。第7回で明かされた永瀬の過去の苦労はベースにありつつも、そこは描かず、アフター描写に集中する。不動産業界のノルマなどは実際のところかなり生々しくキツいだろうが、そこもあっさりだ。