不動産売買のエグさもスルー。それではお仕事ものとしてのリアリティーがないかというとそんなことはない。むしろリアルなのだ。しんどくないリアル。それは知識である。不動産売買の知識がドラマにふんだんに盛り込まれ、不動産売買を経験したことのある視聴者にとっては、あるあると頷けるし、経験のない視聴者、あるいはこれから経験したいと思っている視聴者には興味深い内容が満載だ。

 実際、筆者は昨年、物件探しをして何件もの不動産業者とやりとりしたばかりだったので、そのときのことを思い返し、あのときの自分の判断は間違っていなかったなどと復習にもなった。ネット検索すればわかるような基本的なものではあるが、ドラマ仕立てになっていることで、不動産業者の事情も含めて実感できるのである。

 第5回では、欠陥住宅の問題点を伏せて早く契約させてしまおうとする業者が出てきた。また第7回では、銀行員が住宅を売らず担保にして住み続けるリバースモーゲージという金融商品のリスクを老夫婦に説明しないで勧めてくる。世の中にはこのように親切な仮面をかぶった危険人物たちがたくさん存在する。もちろん自己責任であり、しっかり知識をつけ情報を把握し考えて判断するしかないわけだが、このようなドラマで知識の一端を知ることは役立つし、騙された結果を描くのではないのでしんどくなく観ることができ、かつ、絵空事でもないというお得感がある。

正直に生きる者が報われる展開

 コスパ(コストパフォーマンス)だタイパ(タイムパフォーマンス)だと今のわれわれは効率を大事にする。わざわざ時間をかけて観たら今の自分のしんどさを改めて突きつけられるようなものは無駄と感じる。それよりもいっときいやな現実を忘れて楽しめるもの。あるいは何か役立つ情報が得られるもの。何かしら時間を使った分の得が欲しい。その点「正直不動産」は役立つ情報が得られるうえ、正直に生きる者が報われる展開で、心の安定を得ることができる。

 原作が人気漫画であることと、脚本家の根本ノンジが月9「監察医 朝顔」(フジテレビ)や「ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜」(日本テレビ)など原作ものを、押し付けがましくない程度の程よい塩梅で人情味を残して描くことに長けていること。それが見やすさの要因でもあるだろう。

 永瀬役の山下智久がメリハリの効いた演技をして、優等生すぎず、悪人すぎず、熱すぎず、冷たすぎず、いいバランスをとっている。また、福原遥が演じる同僚の月下咲良は純粋でやや世間知らずな正義感あふれた役柄で永瀬の言動に一喜一憂して、視聴者の目線代わりになっている。的確にその役割を演じている福原は、次期朝ドラ「舞いあがれ!」(2022年度後期)のヒロインに決定していて、この役の路線で演じてくれたら朝ドラも安心な気がする。


木俣 冬(きまた ふゆ)Fuyu Kimata
コラムニスト
東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。