余談になるが、試作を繰り返して気づいたのは、鍋の違いによってじゃがいもの食感が変わること。同じいもを使っても昔ながらのアルミの雪平鍋を使うとホクホクに仕上がり、ストウブやル・クルーゼのような鋳物の鍋を使うとしっとりとする。

肉じゃがはやや煮崩れたところに良さが

 煮崩れにくいのは雪平鍋だ。とはいえ、肉じゃがはやや煮崩れたところにその良さがある気もする。煮込みすぎた料理には懐かしさがあるからだ。完璧な肉じゃがを目指すことがそもそもの間違いなのかもしれない。

 つくった人の数だけ正解があって、その瞬間のおいしさがある。そして、どんなおいしさも食べた人を少しだけしあわせにする。

完璧な肉じゃが
■材料(2〜4人分)
 牛切り落とし肉 150g
 牛脂 20g
 じゃがいも 500〜600g
 玉ねぎ 1個(150〜200g)
 出汁 500ml(かつおと昆布の合わせ出汁など)
 しょう油 大さじ4
 みりん 80ml
 仕上げのしょう油 大さじ1/2
 絹さや 適量
■つくり方
 1 じゃがいもは皮をむき、1.5cm厚の輪切りに。皮をむいた玉ねぎは半分に切ってから、繊維を断つように7mm厚のスライスにする。
 2 鍋に牛脂(スーパーでもらえるもの)を入れ、弱火にかける。じくじくと脂が染み出し、かすかに色づいてきたら、玉ねぎを加えて軽く炒める。
 3 玉ねぎがしんなりしてきたら、しょう油を入れる。香りが出たところでみりん、出汁を注ぎ、じゃがいもを加えて、強火にする。
 4 沸騰してきたら弱火に落として、10分間煮る。じゃがいもに串がささることを確かめたら(硬い場合はもう数分煮る)、牛肉と仕上げのしょう油大さじ1/2を加え、さらに3分間煮て、火を止める。その後、10分間、余熱で火を通す。別に塩ゆでしておいた絹さやを添える。
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樋口 直哉(ひぐち・なおや) Naoya Higuchi
作家・料理家 1981年東京都生まれ。服部栄養専門学校卒業。2005年『さよなら アメリカ』で第48回群像新人文学賞を受賞しデビュー。著書に小説『スープの国のお姫様』(小学館)、ノンフィクション『おいしいものには理由がある』(角川書店)、『新しい料理の教科書』(マガジンハウス)、『最高のおにぎりの作り方』(KADOKAWA)などがある。