森川さんは「悟空にそんなこと言われたら、しっかりしないわけにはいかない」と笑顔で語った。ときに優しく、ときに厳しく、後輩としっかり向き合う姿勢も、彼女がレジェンドたる由縁なのかもしれない。

 声優の“伝説”はアフレコ現場で生まれる。'80年代の大人気野球漫画『タッチ』(あだち充/小学館)が1985年にアニメ化された際、ヒロイン・浅倉南を演じた日高のり子(60)は、アニメ評論家・藤津亮太さんの書籍『声優語』(一迅社)のインタビューで試行錯誤の日々をこう語っている。

レジェンド声優も「成長を止めない」

 幼なじみの上杉達也を南ちゃんが責めるシーンでは、アフレコ中にプロデューサーから「南ちゃんは……怒っても優しく!」と厳しい指摘を受けたという。「怒っているんだから、それは表現しないとやっぱりおかしいだろう。では、どうすればいいか。それで『タッちゃん、そんなことしちゃダメだぞ!』というセリフだったら、途中までは勢いで言って、最後の『ぞ!』だけ(力を優しく)抜くという方法を考えたんです。(中略)そうして演じてみたら手応えがあったんです。だから南ちゃんの基本は、何があっても語尾は優しく(笑)」

 確かに彼女の「◯◯だぞ」は印象的な語尾といえる。憧れのヒロイン、南ちゃんの魅力の秘密は語尾にあり?

 前出の柴田さんは『マジンガーZ』(1972年)で演じたあしゅら男爵のアフレコ秘話を教えてくれた。あしゅら男爵は、夫婦のミイラを組み合わせて造られたサイボーグで、右半身は女性、左半身は男性という特異なキャラクターだ。

「今なら男女の声優の声を別々に収録して、一緒にしゃべっているように調整できますが、当時はそんな技術はありません。ふたりで同時に声を吹き込むしかなかったんです。そこで僕は女性役の北浜晴子さんに『僕が台本を上げてから下げます。そのタイミングで一緒にセリフを言いましょう』と提案したんです」

 台本の上げ下げで“間”を調節したのだ。回数を重ねるごとに、ふたりの息はどんどん重なっていったという。

「僕がリードしているように思えるかもしれませんが、北浜さんは『奥さまは魔女』でサマンサの吹き替えをしていた憧れの大先輩。僕が合わせてもらっていたんです。北浜さんをはじめ、先輩方にはいろいろとフォローをしてもらいましたね」

 職人の技で、当時の技術の限界を乗り越えた逸話だ。そして、業界を牽引している森川さんもレジェンドたちとの仕事を通して、今も多くの学びを得ていると語る。

「マコさんはじめ、柴田秀勝さんや古谷徹さんなど、僕が子どものころにアニメで見ていたみなさんが、今も現役でバリバリ活躍しているのを見ると、恐ろしさすら感じます。自分もそうなれるかわかりませんが、マコさんの教えどおり、これからも“成長”を止めるわけにはいかないですね」

 今や憧れの職業となった声優。レジェンドたちが開拓してきた「道」は、次世代にしっかり受け継がれているようだ。