DVの中で起こる男性の性被害の実態

自殺に関する相談活動などを行なっているNPO法人『OVA』代表の伊藤次郎さん。
自殺に関する相談活動などを行なっているNPO法人『OVA』代表の伊藤次郎さん。
【写真】見過ごされてきた男性への性暴力……その実態

 伊藤代表らの調査では、被害内容を表す選択肢の中に「気が進まないのにパートナーから性的な行為を強いられる」という項目がある。

「よくある」「たまにある」を加えると、男性から女性の被害は4割弱。女性から男性の被害は2割強。女性に比べて少ないとはいえ、男性も性的なDV被害に遭っていることがわかる。

女性が被害者の場合、緊急避妊などの知識がないと対応できません。一方、男性は離婚や裁判などに向けた法的サポートを求める傾向が強い。

 性暴力支援のあり方を研究し、大人支援を行う側の育成をし、受け皿を強化していくことが必要です」(伊藤代表、以下同)

 また同調査では、男性から女性への被害、男性から男性への被害といった性別の組み合わせのほか、地域によっても暴力の内容が変わることが明らかになっている。

 しかし、具体的な相談窓口を知っている人は少なかった。望ましい相談体制については、順に「メール」、「電話」、「対面」、「LINE」を選ぶ人が多かった。

被害者の性別を問わずに支援する重要性が増している(写真はイメージです)
被害者の性別を問わずに支援する重要性が増している(写真はイメージです)

「夫婦やパートナー間で生じる性暴力のほか、男性同士の間での被害もあります。男性と女性とでは、同じ被害者であっても性暴力への対処の仕方が異なります。

 女性の場合、身近な人に相談する傾向がある一方、男性は公的窓口に相談するケースが多い。そうしたニーズに応じた相談支援を行うことが重要です。まずは、男性も性暴力被害を受けることがあると発信していきたいです」

 厚労省の母子保健課は「配偶者やパートナーに限定することなく、また、男性を含め性別にかかわりなく、性被害の実態調査をします。その上で、性被害者が医療機関を訪れたときにどうすべきかを把握し、支援体制を作っていきたい」としている。

 本格的な実態調査をきっかけに、これまで見過ごされてきた男性被害者への支援が求められている。


取材・文/渋井哲也
ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。自殺、自傷、いじめ、虐待など、生きづらさをめぐる問題を中心に取材を重ねている。新著『ルポ自殺:生きづらさの先にあるのか』(河出新書)が8月に発売予定