ここまで、新旧人気芸人の貧乏エピソードを紹介してきたが、今まさに貧乏ど真ん中で夢を描く若手芸人はどんな生活を送っているのだろうか。

「私は、28歳のときに芸人を目指して地元の広島から上京しました。それからずっとお金に余裕はないですね」

 そう話すのは“似ていないのに似て見えてくるものまね”を持ちネタに活動するものまね芸人・きのこちゃん(32)だ。上京したてのころは弟の家に住んでいたが、ささいなケンカをきっかけに同居を解消。しかし、家を借りるほどの手持ちがなかった彼女は、1か月家賃5万円の“レンタルルーム”で新生活をスタートさせたという。

男女共有、ゴキブリ大量発生、隣人トラブル

「そこは、Wi-Fiとシャワーはある、簡易宿泊所のような場所でした。自分のスペースは畳1畳ほどしかなく、壁は薄い仕切り板のみ。ドアには申し訳程度にカギがついていましたね。

 男女共用のレンタルルームだったので、間違えて隣室のドアを開けてしまったときは、自室でくつろぐおじさんの全裸を見てしまいました」

 1か月ほどそのレンタルルームで過ごした後、次に移り住んだのは、ひと部屋2畳の女性専用レンタルルーム。ベッド付きで住環境が改善されたように思えたが「隣人トラブルがつらかった」と、きのこちゃん。

「音に敏感な人が隣に住んでいて、少しでも私の物音が気になると壁を“ドン”と叩かれました。

 またあるときは、私が芸人をしているという情報をどこからか仕入れて『芸人のくせにブス!』と、壁越しに直球の悪口を言われたことも。芸人ならブスでもいいじゃん!と思いましたが(笑)。

 そこには5か月ほど滞在し、次は4畳がパーソナルスペースのシェアハウスにグレードアップ!……したのですが、ほどなくゴキブリが大量発生。毎晩彼らと格闘していました」

 過酷な上京物語を経た現在は、先輩のものまね芸人が所有する8畳の衣装部屋を月2万円で借りているという。

「図らずも、転居するごとに広さが倍になっているので、芸人仲間からは『ヤドカリ女』と呼ばれてるんです(笑)。

 いつまで続くかヤドカリ人生、という感じですが、部屋を貸してくれている先輩には本当に感謝しています。

 私も売れて独り立ちしたら、困っている後輩をサポートしたいですね。最初に住んだ1畳のレンタルルームは自分の原点。あそこに戻らないように、これからも芸を磨いていきます!」

 彼女の夢は“庭付き一戸建てで犬を飼うこと”。芸人のハングリー精神は、貧乏生活の中でこそ育まれるものなのかもしれない!

きのこちゃん●1990年、広島県生まれ。芸人を目指して上京。特技は長澤まさみなど“似てないのに似て見えてくるものまね”。『ホリプロコムものまね軍団』のメンバー、今年は9月11日栃木市、10月15日東京、11月13日飯能市で軍団でのライブを開催。

(取材・文/大貫未来)