一方で、人の意見に振り回される人には、

「ワシは人の話を聞いたら自分の心の篩(ふるい)にかける。いいなと思う言葉だけ残して、あとは捨てるっちゃ」

 と語り、「親に言われて入った会社だけど最悪だ」と文句ばかり言う人には

「最終的には自分で決めたこと。いつまでも自分の人生を他人に委ねてはいけないよ」

 と厳しい言葉を送ることもある。

一生なんて本当は一瞬

「ワシもそうだけど、世の中に完璧な人間なんていないでしょ。人間ってね、小さな細胞の塊だから弱いんよ。悪いことだとわかっていても誘惑に負けたりね。

 でも生まれたときから悪人なんていないんよ。まわりの環境や自分の意思とか毎日の積み重ねでいろんな道に行く。だから1度、道から外れても“悪人じゃ”って決めてはいけないと思うんよ。人間ちゅう動物は、誰かのちょこっとした優しさで変われる動物じゃねえかな」

 最後に、落ち込んだときにいつも思い出す「人生は地球の瞬き1回分」という私の好きな尾畠さんの言葉を紹介したい。

「地球の歴史から見れば人間の一生なんて、人間の動作に例えたら瞬き1回分のようなもの。そう考えたら、泣いたり喚いたり、立ち止まったりしているヒマはないの。長い一生なんて本当は一瞬。くよくよする必要なんてないっちゃ!」

全国の被災地をボランティアとして飛び回り、会う人を元気にする、言葉の数々。『お天道様は見てる 尾畠春夫のことば』(文藝春秋刊)※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします
【写真】バナナを皮まで食べる尾畠春夫さん「皮にも栄養、あるっちゃ」
寄稿・撮影/白石あづさ(しらいし・あづさ)ライター、フォトグラファー。旅行誌や週刊誌などを中心に執筆。尾畠さんの著書のほかに『佐々井秀嶺 インドに笑う』(文藝春秋)『世界のへんな肉』(新潮文庫)など