潮目が変わった出来事

 では、受信できないようにすればいいのではないか? そうした意見を代表するのが、近年、何かと話題に上がる「スクランブル化」だ。電波に暗号をかけ、受信料を支払った人だけが放送を視聴できるようになる。『週刊女性』の調査で「スクランブル化をどう思うか?」という問いに対し、

「スクランブル化してニュースなど、必要な番組だけ無料公開すべき」(千葉県・女性・43歳)
「見ない権利も認めろ!」(秋田県・男性・67歳)

という声が上がるように、実に9割以上の読者が「賛成」と回答しているほどだ。大野さんは、「スクランブル化は技術的にはすぐに対応することができる」としながらも、

「電波に暗号をかけて見れなくしても、受信していることに変わりはない。スクランブル化をするだけでは状況は変わらないでしょうから、放送法の法改正をしなければ“支払わなくてよい”ということにはならないでしょう」

 となると、現時点でもっとも現実的な着地点が、受信料の値下げということになる。妥当な月額を問うと、読者のほとんどが1000円以下。とりわけ、「500円」と答える人が多い。

 こうした背景には、昨今のNetflixなどの動画配信サービスが、1000円前後で楽しめるといったことも挙げられる。衛星契約にいたっては2170円、さらには過去のアーカイブを楽しめる『NHKオンデマンド』を楽しむ場合、別途料金が発生する(月見放題のパック料金は1か月1470円)。さすがに高すぎるだろう。

NHKはあくまで公共放送という位置づけですが、例えばイギリスの国営放送BBCは年間の受信料は約2万円、韓国の国営放送KBSは年間3000円ほどです(双方ともにレートで変動)」

受信料徴収業者によっては、呼び鈴を連打したり、恫喝まがいの取り立てもあったという
受信料徴収業者によっては、呼び鈴を連打したり、恫喝まがいの取り立てもあったという
【グラフ】NHK受信料に関するアンケート、驚きの支払い率

 国によって金額はバラバラだが、海外の国営放送の多くは未払いに対して罰則がある。対してNHKは罰則がないにもかかわらず、約7~8割の国民が受信料を支払っているのだから驚きだ。

 また、NHKの強気な姿勢の一環として、大野さんは「2017年の最高裁の判決が大きい」と語る。客室のテレビを巡る受信料の訴訟で、ホテル側に支払いを命じる判決が確定。ホテルであろうが電波を受信している─放送法の規定を合憲と判断した一件だ。

「これで潮目が変わりました。NHKは強気な法人営業を展開し収入が増えた」

 その一方で、“NHK離れ”の民意は高まり、'19年に行われた第25回参議院議員通常選挙では、NHKから国民を守る党(当時)が比例区で1議席を獲得するまでになる。最高裁の判決を機に、NHKに対する世間の“目の色”も変わったのだ。

「私が在籍していた時代、チーフプロデューサーによる巨額の制作費着服事件など不祥事が起こりました。そのときNHKは、どうしたら信頼を取り戻せるか真剣に考え、良質な番組を作ることで理解を得ようと努力した。その結果、'08年にはゴールデンタイムの視聴率でフジテレビに次ぐ2位にまで躍進した。コンテンツが民放化しているという批判の声もありましたが、NHKなりの努力の姿勢でした」