だが、そうした姿勢は「現在は希薄化しているのでは?」と大野さんは指摘する。

「'08年以降、NHKの会長職は外部招聘になりました。かつてあった政治家との駆け引きや反論は影を潜め、NHKは政治家の機嫌をうかがうだけで自主性を失なっている。菅義偉首相(当時)が1割を超える受信料の引き下げを宣言したのは最たる例。昔なら、そうした発言はNHKの会長から発せられるものだった」

視聴率が0%になることが望ましい

 アンケート回答の中には、「公平な放送をしないから」(京都府・女性・50歳)といった声もあったが、政治家に逆らえないNHKというイメージを、視聴者にもたれている証左だろう。

 では、どうすればNHKは理解を得られるか?

「値下げ幅に納得していない人の中でも、民営化(国有化)して無料にするべき、と答えた方が102人に対して、月額料金こそ意見が分かれますが、有料でもいいと答えた方は、その倍以上います」

 そう大野さんが話すように、今回のアンケートでは、「500円、1000円であれば妥当」と答えた人が多数いたことも見逃せない。NHKに一定の信頼を置いている人は、少なくないということの表れだろう。

 政府は、NHKの受信料を「特殊な負担金」と位置づけている。それは、“公共の福祉のために、豊かで、かつ良い番組を放送するという公共放送の社会的使命を果たすため”に必要だからだ。

「民営化すれば、目先の視聴率を追わなければいけなくなるので、現在Eテレで放送しているような教育系・福祉系コンテンツを作ることは難しくなるでしょう。また、災害時の情報なども、47都道府県に支局のあるNHKだからこそ地域に寄り添った情報を提供することができるわけです。また、国営化すると、戦時中の大本営ではないですが、偏った情報しか発信しなくなる可能性を持つ」

 公共放送という、NHKだからこその立ち位置があることは事実だろう。昨今は、批判の的となっていた「巡回訪問営業」から、NHKのホームページやアプリなどを活用した「訪問によらない営業」へ業務モデルを転換することも発表。今回の1割の値下げを含め、NHKも歩み寄りの姿勢を見せているのだ。

NHKは、自らの価値を届ける努力をしなければいけないと思います。私の先輩はNHKで手話を学ぶ番組を手がけていたのですが、“視聴率が0%になることが望ましい”と話していました。0%ということは、誰もが手話を理解できる世の中。そんなことを掲げる番組、民放では作れません。“NHKとは世の中にとってこういう存在だ”と、もっと発信していってほしい」

 NHKほどクオリティーの高いドキュメンタリーを作れる放送局はないだろう。そうしたコンテンツをもっと有効に開放するなどすれば、きっと多くの視聴者がNHKを“見直す”はず。有料・無料、高い・安いではない議論ができるようになってほしい。


おおの・しげる 1965年東京都生まれ。阪南大学教授(専攻:メディア・広告・キャラクターなど)。慶應義塾大学卒業後、電通でラジオ・テレビ部門を担当。スペースシャワーTV、スカパー!、NHKの制作ディレクターを経て2014年より現職

取材・文/我妻アツ子