車イスでも使える台所にリフォーム

 40代から自分なりの工夫でつくり上げてきた台所だったが、82歳になった2018年に今の自分の身の丈に合った台所へのリフォームを決意し、デザイナーに依頼。いちばんのこだわりは、車イスになっても使える台所だ。

 まず考えられたのが、足元があいているシンクやガス台。足元に空間ができて膝を中まで入れられる。

 ほかにも使いやすくするために、さまざまな工夫をした。今まで2槽式だったシンクは1槽式に。

「仕切りがなくなり、広々としました。フライパンを洗うときも、柄がシンクのふちに当たらず、使いやすいです」

シンクとガス台の下をあけて、車イスになっても膝が楽に入る作りになっている。仕切りのない広いシンクは、洗い物もしやすい 写真提供/長谷川潤(書籍『85歳現役、暮らしの中心は台所』より)
シンクとガス台の下をあけて、車イスになっても膝が楽に入る作りになっている。仕切りのない広いシンクは、洗い物もしやすい 写真提供/長谷川潤(書籍『85歳現役、暮らしの中心は台所』より)
【写真】壁に有孔ボードを設置して、ザルなどをつるしてスペースを有効的に活用

 これまで高い位置にあったつり戸棚を、身長に合わせて下げたことで、踏み台を使わずに出し入れできるようになった。そこには琺瑯の鍋を主に収納している。

「鍋などの重いものは低い位置に収納するのが一般的ですが、私の場合は取り出すためにしゃがんで立ち上がる動作がおっくうなの。それで、立ったままで手が届くつり戸棚に、鍋を収納しています」

 壁面はマグネット仕様に。新聞に載っていた料理の切り抜きやメモを貼ったり、マグネット式のフックを活用。

 食器の収納は食器棚をやめて腰から下の引き出しに。引き出しの中は細かく区切って、器ごとの定位置を決めた。大皿は引き出しの中に1枚ずつの仕切りを作り、立てて収納している。引き出しの上は、今まで確保できなかった配膳スペースになった。

器の定位置をつくる 写真提供/長谷川潤(書籍『85歳現役、暮らしの中心は台所』より)
器の定位置をつくる 写真提供/長谷川潤(書籍『85歳現役、暮らしの中心は台所』より)

 リフォーム翌年のコロナ禍のなか、同い年の夫が肝臓がんで入院して手術を受けた。幸い3か月ほどで退院。自宅療養となってからは髙森さんが毎日3食作っている。

「これまでは仕事が忙しく、1日3食の食事を作った経験がなかったんです。でも台所をリフォームしていたおかげで、夫の体調に合わせた料理を毎日、楽しく作っています」