元に戻れないからこそ自分らしくいたい

 もともと忘れっぽく、人の名前も覚えるのが苦手だったという蛭子さん。「認知症になってから変化は?」と聞かれると「自分としては全然変わっていません。不便もあんまり感じないです……嫌な思いをしたこともないですね」と答えている。

 ただ、変化はないと言いつつも、これまでやり続けてきた競艇、麻雀、パチンコなどのギャンブルはぱったりとやめた。

「ギャンブルをしなくなったいちばんの理由はお金を使いすぎちゃったから。最近は我慢しているというよりも、それほどしたくなくなっちゃった」(蛭子さん、以下同)

 今はギャンブルよりも仕事をしたいという意欲のほうが高かったり、以前はあまり好きじゃなかった人と会うことが面白いと感じたりしている。さらに、奥様へ感謝の気持ちを言葉にするようになった。

「いるだけで楽しいですよ。やっぱり女房といるときが一番いいです。落ち着きますし、ほっとするし……。何しろ、ずっと一緒にいたい。いつも『ありがとう』と感謝を伝えています」

 認知症になる前は発することのなかった感謝の言葉も、今は自然と出てくるようになっている。どうやら、蛭子さんにとって認知症は悪いことばかりではないようだ。

認知症になったら元に戻せるわけでもない。人間だしこんなこともあるよねっていう感じです。やっぱりならないほうがいいけど、俺自身は変わらないから」

 テレビから伝わってくる、あの自然体で認知症と向き合っているように見える蛭子さん。自分らしく穏やかに過ごすためには、もっとも大切なことなのかもしれない。

(取材・文/相原郁美)