(7)脳腫瘍

 脳に腫瘍ができると、半身まひ、歩けない、言葉が理解できない、視野が欠けるなど、さまざまな機能障害が起きる。

「たとえ良性の腫瘍だったとしても、場所が脳である以上、治療後に四肢まひなどの後遺症が残るリスクがあります。最低でも5年に1度は脳ドックを受けてほしい」と訴えるのは秋津先生だ。

 一方で中川先生は、100種類以上もある脳腫瘍のうち、最も悪性度が高い「神経膠芽腫」の怖さを語る。

「この腫瘍は、脳にしみ込むように広がり、正常な脳との境界を不鮮明にします。進行も速く、手術で全摘出することは困難。再発のリスクも高く、手術後も放射線療法や抗がん剤などが必要になります」

 さらに、この腫瘍の周りには脳浮腫というむくみが起き、脳の機能を蝕むという特徴もあるという。

 中川先生いわく、これは予防できるものでもなく、発症したら受け入れるしかないそう。医学の進歩で、一刻も早く完治する方法が見つかってほしいものだ。

今年亡くなった落語家の三遊亭円楽さんが、最初に体調を崩したきっかけは脳腫瘍。2019年、落語のあらすじや噺の順序がわからなくなり、異変を感じた。その後MRI検査で脳腫瘍と診断、緊急入院
今年亡くなった落語家の三遊亭円楽さんが、最初に体調を崩したきっかけは脳腫瘍。2019年、落語のあらすじや噺の順序がわからなくなり、異変を感じた。その後MRI検査で脳腫瘍と診断、緊急入院
【写真】がんの生存率が年々上昇!「5年相対生存率(全部位)」

がん予防の習慣で生存率は劇的UP

「自分がもしがんになったら……」と思うと不安になるが、5年相対生存率は年々上がっており、現在では60%を超える。がん患者の半数以上が生き延びられる計算だ。

5年相対生存率(全部位)出典:国立がん研究センターがん対策情報センターより
5年相対生存率(全部位)出典:国立がん研究センターがん対策情報センターより

 がんで命を失うリスクを少しでも減らすには、日頃からがんに関心を持ち、何げない不調を見逃さないことが肝心だと押川先生は繰り返す。

「少しでも身体の異常を感じたら受診を。もし悪化の傾向があるようなら、根気強い通院が大事です。がん細胞は進行とともに大きくなるので、繰り返し来院の記録があれば、病院側も時間の変化で症状を比較できます」

 生活習慣の重要性を訴えるのは秋津先生。

「日頃の生活を見直せばリスクが減らせるがんもある。タバコは吸わない。お酒ほどほど。バランスのいい食事と運動。身体に悪い習慣は少しでも減らしましょう」

 中川先生は歯周病ケアもがん予防に効果があると話す。

「歯周病のある人は、そうでない人に比べて膵臓がんや食道がんなどの発症率が高いという研究結果もあります。毎日の歯磨きでもリスクが減らせるなら、ぜひ怠らずに続けたい」

 2人に1人ががんになる時代。他人事だと思わず、小さな変化にも早めに手を打つのがポイントだ。

がんのリスクを減らす5つの生活習慣』
【禁煙】 タバコを吸わない。他人のタバコの煙を避ける。
【節酒】 1日の飲酒量の目安は日本酒で1合、ビール瓶(633ml)で1本、ワインボトルで3分の1程度。
【食生活】 塩分を控える。野菜と果物をとる。熱いものは冷ましてから口に入れる。
【身体活動】 歩行か、それと同程度の活動を1日60分程度。
【適正体重の維持】 BMI値を男性は21~27、女性は21~25の範囲に。
(国立がん研究センターがん情報サービスより作成)

お話しを伺ったのは……

秋津壽男医師●日本内科学会認定総合内科専門医、戸越銀座秋津医院院長。テレビ東京『主治医が見つかる診療所』に12年間レギュラー出演。著書に『放っておくとこわい症状大全』(ダイヤモンド社)、『がんにならないのはどっち?』(あさ出版)など。

押川勝太郎医師●宮崎善仁会病院非常勤。腫瘍内科医。専門は抗がん剤治療、緩和ケア。25年間で1万人以上の全国のがん患者と直接対話し、毎週日曜日夜にYouTubeがん防災チャンネルでがん相談飲み会ライブ(同時視聴500人)を開催中。

中川恵一医師●東京大学大学院医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。一般向けの啓発活動にも力を入れ、福島第一原発事故後は支援も積極的に行う。日経新聞にて「がん社会を診る」を連載中。著書に『最強最高のがん知識』(海竜社)など。

(取材・文/オフィス三銃士)