目次
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ー パラレルワールドのような不思議な時間
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ー 未来に変に期待しない過去にもしがみつかない

 離島に赴任してきた外科医、コトーこと五島健助(吉岡秀隆)と島の人々との温かな交流、そして命の尊さを描く『Dr.コトー診療所』。連ドラ第1期('03年)の最高視聴率は22・6%、 第2期('06年)は25・9%をたたき出した。そんな国民的人気作が、16年の時を経て劇場版の公開を迎える。

「何よりいちファンとして、続編決定に“うれしい”って思えました」

 診療所の看護師・星野彩佳を演じ続けたのは柴咲コウ

「この作品は全部が決まった状態でオファーが届いたというより、中江(功)監督から“またやろうと思うんだけど、どう思う?”と(キャストに)意見を募るような参加型で。みなさん他人事のように“いいんじゃない?” “やるべきだよ”とは言うけど、自分自身が出演するとなると……(笑)。

 物理的にいろいろな問題もあるし、時間は絶対にかかる。体力面での戦いもある(笑)。だけど、できあがったものは有無を言わさず素晴らしいし、説得力もある。なので今回、具体的に描かれるものが固まる前に全キャストの続投が決まって、私も“ぜひ参加します!!”とお返事しました」

 本作では“五島彩佳”として登場し、かつ妊娠7か月だ。

「そうなっていてほしいというか、“そりゃそうだよ”というか。もし、誰かほかの人とくっつけていたなんて、ファンが許さんぞ!!ってなるでしょ(笑)」

 できればふたりのなれそめも見たかったが、

「でも、恋愛は描いてほしくなかったですね。なんか気恥ずかしいし、そこを超越した家族的な愛、もっと大きな豊かな愛のほうがふたりには似合うから」

 前作では、乳がんを患った彩佳が描かれたが、

「コトー先生は“僕が絶対治す”って言ってくれていたらしくて(笑)。吉岡さんは“あれはもう、コトーのプロポーズだと思っている”と。でも彩佳としては“そうなの?”みたいな(笑)。そういうのもあってたぶん、じりじりした彩佳が“先生、いいかげんどうするんですか!!”とか言って。“え?僕はそういうつもりで……”とかやっていたんだろうな(笑)。それを想像するのが楽しくて」

 ちゃめっ気たっぷりの語り口に、作品への愛情があふれる。

パラレルワールドのような不思議な時間

 16年ぶりでも、彩佳役にはすんなり戻れたと振り返る。

柴咲コウ 撮影/齋藤周造
柴咲コウ 撮影/齋藤周造

不思議な時間が流れているんですよ、この作品には。パラレルワールド的な感じというか。志木那島の人の生活はずっとあり続けていたというか。そこに私の魂がポコンと乗るような変な感覚ですね。

 もちろん(ロケ地の)与那国島に行くと感慨深さはあるんだけど、久しぶりという言葉では言いきれない、自分の人生を反芻(はんすう)してしまうようなところもあって。“ここにいた20代の私は、こういうことを考えていたな”と、戻ってしまうところもあるんですよね」

 物理的な時間が作品にも流れる中、女優を続けている喜びや意味も改めて感じたのでは?

「できてよかったとは思うけど、またそれも運命的なもので、奇跡的だと思っています。持続することが精神安定になる人もいると思うけど、私はどちらかというと変化を好むタイプ。逆に“続けられた” “この役またできるんだ、やった”という感覚。それは意外な報酬というか(笑)」

 長く愛され続けたシリーズだが、本作で集大成。

「東京生まれの私には、いわゆるふるさとというものがなくて。両親が北海道に住んでいたので、その縁でたまに遊びに行くことはあったけど、いわゆる“帰る場所”ではなくて。でも、この作品は帰る場所になっているなと思います。だからこれだけ愛情深くなっているし、思い入れもある。今後、みなさんに見てもらう機会がなくなっても、島に集う人たちは永遠に続いていくような、そんな感じはしています」