「ムダ」を防ぎ、医療費の負担増を抑えるためにできること

※写真はイメージです
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 収入減少を防いで経営の安定化を図るには、患者を囲い込み、過剰な治療や検査を行うことが手っ取り早い。そうして生じる「ムダ」を防ぎ、医療費の負担増を抑えるためにも、井伊さんは「医療の質とコストを客観的に評価し、管理するシステムが必要です」と指摘。

 すでにイギリスやオーストラリア、そしてインドネシアでも、医療機関ではない第三者機関による「医療の質」の評価が行われている。

「例えばイギリスの評価基準では、治療の『有効性』『安全性』『患者中心の医療かどうか』などの指標で全診療所と病院の質が評価されます。リストになっていて、それを見て患者は自分で判断できるというわけです。独自の基準を設けている国際機関もあります」

 それと同時に、患者の囲い込みを誘発する診療報酬制度も、変える必要があると井伊さんは強調する。

「出来高払いの日本と違って、カナダなど多くの国では『人頭払い制度』を導入しています。これは患者が自分の認定医を決めておき、医療機関は患者数に応じた報酬を受け取る制度のこと。いくら診療しても報酬が同じなら、過剰診療やムダな検査はなくなるはず。人頭払いであれば収入が予想できますし、人口減少期に突入した日本社会の事情にも合っています」

 とはいえ、制度を変えるのは難しく、時間もかかる。私たちに今からできる対策はないだろうか?

「地域で『総合診療専門医』を見つけることです。身近にいて、ご本人だけでなく家族の健康も、何でも相談に乗ってくれる専門医ですね。

 こうした医療は『プライマリ・ケア』と呼ばれ、看護師や薬剤師、介護福祉士ら専門職と連携している医療機関も多い。受診の窓口が1つになるので、風邪は内科、子どもは小児科、アレルギーは皮膚科……と、複数の病院にかかる必要はなくなります。

 医療機関を変える際につきものだった新たな検査も不要。つまり、保険財源の節約につながります」

 1年に1兆円といわれる医療費の急伸を抑え、負担増を食い止めるには、患者側が変わることも求められている。

〈取材・文/千羽ひとみ〉

 せんばひとみ ●フリーライター。人物ドキュメントから医療、実用まで幅広い分野を手がける。『キャラ絵で学ぶ! 徳川家康図鑑』ほか著書多数