親を責めても虐待が減らない理由

 早川さんが『子供の家』の施設長となって9年。子育てにも自己責任論が広がっているのを感じてきた。ベビーカーは邪魔と疎まれ、子どもの泣き声は騒音扱い。親である以上、きちんと育てなくてはダメ─。そんな風潮が広がる中、児童虐待の相談件数は過去最高を更新している。

 早川さんは「親を責めても虐待は減りません。子どもの数が減っていくだけです」と断言する。

早川さんは『つぼみ』について「10年前から地域に居場所を作りたいと思っていた」と語る(撮影/齋藤周造)
早川さんは『つぼみ』について「10年前から地域に居場所を作りたいと思っていた」と語る(撮影/齋藤周造)
【写真】親も子どももくつろげる和室の部屋、宿泊もできる『子供の家』

「『子供の家』の入所理由でいちばん多いのが虐待です。それも、育児放棄を意味する『ネグレクト』がトップ。これはどういうことか。

 例えば、シングルのお母さんが昼も夜も働いて、幼い子どもを残して家を空けている。お母さんがいないことに気づいた子どもは外へ出てしまい、近所から警察に通報される。これが児童養護の現場でよくある『ネグレクト』の典型例。要は女性の貧困問題なんです」

 意外なことに、虐待の相談件数は増えているが、虐待死の数も同様に増えているわけではない。

「マスコミは『児童虐待が過去最多』と見出しをつけるけれど、あれは虐待が起きた数ではなく、児童相談所が虐待の相談を受けた数が過去最多だということ。虐待死に目を向けると、'08年前後には100人超えで推移していましたが、'18年は73人でした。

 けれども、目黒や野田の虐待死事件をきっかけにマスコミや当時の首相までもが“虐待死が急増”と騒ぎ立てました」

 その一方で、危険水域に入っているのが少子化だ。

「'18年に生まれた新生児は91万8000人、'19年は86万5000人でした。たった1年で大きく減り、'22年は70万人台まで急降下しています。この調子で減っていくと、日本は50年もしないうちに子どもがいない国になる。

 産んだ親、とりわけ母親の自己責任が強調され、近隣住民はこれを支えるのではなく、監視するようになってしまっています。こんな国で安心して子育てをするのは容易ではない」

 自己責任論から解放されるには、親がひとりで抱え込まないよう、子育てを社会でシェアする必要がある。そうした発想から昨年4月に作られたのが、『そだちのシェアステーション・つぼみ』だった。

 木のぬくもりを感じるリゾートホテルのような外観の建物は、1階が「子どもの居場所」。清瀬市、日本財団、地域の市民活動家らとともに運営している。地域の子どもたちが学校帰りに立ち寄り、専門スタッフらとともに宿題をしたり、おやつを食べて遊ぶ。必要であれば夕食をとり、宿泊もできる。

 2階では1~2週間の滞在ができる「ショートステイ」を運営。清瀬市・東久留米市・豊島区と提携し、こちらも宿泊できるスペースだ。

「子どもを迎えに来たお母さんが愚痴を言ったり、相談したりできるスペースにしていきたい」と早川さん(撮影/齋藤周造)
「子どもを迎えに来たお母さんが愚痴を言ったり、相談したりできるスペースにしていきたい」と早川さん(撮影/齋藤周造)

『つぼみ』を統括する能村愛さん(48)は、『子供の家』のスタッフからこちらに移った。ちなみに能村さんは、早川さんの妻でもある。

「『子供の家』では、都内のいろいろなところから来た子どもたちが相手だったんですが、『つぼみ』は地元の子ども子育て支援団体との触れ合いが多く、やりがいを感じています。保護者向けの性教育講座もあったりして、楽しいですよ」

 早川さんが強調する。

「『つぼみ』の目的は児童相談所に子どもを連れて行かせないこと。つまり、地域の子どもを地域から引きはがさせないことが狙いなんです。そのためには行政や子ども食堂の人たちに、“見守りが必要だな”と思う子どもを確実にここへつないでもらう。地域との連携が欠かせません」

 親も子どもも、地域から孤立させない──。それが支援の第一歩といえるのかもしれない。

取材・文/小泉カツミ(こいずみ・かつみ)●ノンフィクションライター。芸能から社会問題まで幅広い分野を手がけ、著名人インタビューにも定評がある。『産めない母と産みの母~代理母出産という選択』『崑ちゃん』(大村崑と共著)ほか著書多数。