変わってきた悪女の描き方

 吉田氏は昔と今では悪女役の描き方が変わってきたと分析。徹底的に嫌われる人格の悪女はおらず、昨今では特に誰も悪いとしないドラマが求められるという。

「ある程度視聴者の共感を得るために、貧困だったり、虐待されていたり、不幸な原因があって悪の道にいった……というような背景のストーリーが必ずついています」

 悪役を演じると、昔はカミソリ入りの手紙が送られてくるほどだったが、今はそんなリスクを背負わせるような人物の描き方はしない。

「きっかけのひとつに、坂元裕二さんが脚本を書いた2010年に日本テレビで放送された『Mother』があるかもしれません。悪役を演じる尾野真千子さんがどうしてそうなってしまったかを追う回がありました。当時としては珍しく、間違ったことをする側の背景を描くことで、こんなにドラマって深くなるんだと思った記憶があります」(吉田氏、以下同)

 その後、悪者役にも背景を描くドラマは増えたという。

「坂元裕二さんに影響を受けたと思われるクリエイターも続々と出てきています。去年、おととしぐらい前からですが、ドラマで表現する善悪の描き方がますます一元的ではなくなってきています。それも面白いと思いますし、令和らしいなと思います」

 昨年に大ヒットしたドラマ『silent』(フジテレビ系)も、誰も悪者にならないような描き方だった。今の世の中ではそうした“配慮”を求められているのかも。

「コロナ禍を経て、物価高騰などしんどい話題が多い昨今。勧善懲悪ではなく、誰にでも理由があるという優しい描き方のドラマが見たいんだと思います。ですが、私はやはりもっと新しい悪女像も出てきてほしいと切に願います」

 今後そういう作品は出てくる可能性はあるという。

「最近、女性の脚本家や演出の方も増えてきているので、女性の描き方がこれから変化するのかもと期待しています。女性を悪者にしてはいけないという空気は依然としてあります。同性だからこそ、性的な表現など微妙なニュアンスでも逆に踏み込める部分があるかもしれません」

 ドラマの中だけでも大暴れしてスカッとさせてくれる悪女役の誕生に期待したい。

吉田潮(よしだ・うしお)●コラムニスト。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆し、『週刊フジテレビ批評』のコメンテーターも務める。著書に『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)などがある

(取材・文/諸橋久美子)