希望出生率1.8、目標値は立ち消え楽観的な推計が並ぶ

 少子化対策の目標値は未達成であるばかりか、人口減少のペースは歯止めがきかず、さらに加速する緊急事態になっている。2015年の経済財政運営の基本指針『骨太の方針』では「50年後にも人口1億人程度」を目指し、若い世代の結婚や出産の希望がかなった場合の出生率の水準である「希望出生率1.8」という目標を戦後初めて打ち出した。

 ところが2018年の『骨太の方針』では「人口1億人維持」の文言は削除され、今年3月に発表された岸田内閣の『異次元の少子化対策』のたたき台では「希望出生率1・8」という具体的目標値すら見当たらない。

「少子化や人口減少は1990年代にはすでに顕在化していた問題ですが、この20年間でドラスティックな政策が打ち出せず、小手先の改革ばかりになってしまった結果が今の出生率の低下につながっています。

 少子化問題を考えるうえでは、スウェーデンとフランスという合計特殊出生率の回復に成功したといわれる国がベンチマークとしてありますが、そういった事例を参考にしながら、具体的な政策をいかに打ち出していけるのか……待ったなしで取り組むべき喫緊の課題です」

'97年以降、子どもの数が高齢者人口よりも少なくなった
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 少子化はさまざまな要因が複合的に絡むため、取り組むべき課題も数多い。4月26日に発表された厚生労働省の『将来推計人口』では、2023年に出生率が底打ちし、その後は緩やかに回復していくという、やや楽観的にも思える推計が描かれた。

 実現のためには、子どもを産み育てやすい環境をつくるだけでなく、子育てに関わる人すべてに対する包括的なケアも必要となると、平河さんは指摘する。

「男性が育児参加しやすい環境をつくるための労働状況の改善などは、第2次安倍政権以降で成功しているレガシーといえるかもしれません。その方向性をさらに進める一方で、フランスの事例に見られるような結婚しないカップルの出産や育児に対するケア、アメリカなどの事例に顕著な移民の増加による人口増の観点なども含めると、講じるべき対策は無数に出てきます。

 ポジティブな目標を設定して突き進むことも必要であると同時に、現実に即した実現可能なラインをひいて政策を打っていかなければ効果的な改善は期待できません」

 状況に応じて政策目標を柔軟に修正していくことは当然必要ではあるが、同時に過去の方向性の検証や国民への十分な説明、実現後のフォローアップも重要だ。

「例えばマイナンバーカードの普及政策は、具体的な目標を掲げてその達成に至った事例のひとつ。ただ、その綻びもすでに出始めていて、システムの不具合などの問題も露呈してきています。

 新たな問題のしわ寄せが、地方公務員や医療の現場などにきてしまうような事態は避けなければならず、政策を実現させた後の現場のフォローも重要な課題です。そういった政治の動向をきちんとチェックしていくことは、国民が政治に関わっていく方法のひとつとしてとても重要だと思います」

 今後も政策実現の過程をシビアに見ていくことが大切だ。

平河エリ●政治分野、議会政治などの仕組みについて、朝日新聞、講談社、扶桑社、サイゾーなどで執筆するほか、YouTubeなどで配信を行う。著書に『25歳からの国会 武器としての議会政治入門』(現代書館)がある。

(取材・文/吉信 武)