「自立」を約束するもまったく守られず

「仕事をしろ」など、直接責める言葉をかけたことはないと言う。休日に、「出かけないか」と誘ってみたこともあるが、祐子さんは「嫌」と言って部屋から出てはこなかった。

「祐子には現金は渡していません。彼女は買い物に行くとスマホで会計をする。そのためのお金は口座に用意してあるので引き落とされています。最終的に私がいなくなったら家を売れば何とか食べていけるんじゃないかと妻は考えていたようですが、はたしてそうなるかどうかはわかりません。

 人間嫌いで命令されるのも嫌、好きなように生きたいと思っているんでしょう。そのためにどうしたらいいのかを話し合いたいと私は思っているのに、祐子はまったく耳を貸さない」(武徳さん)

 姉の千波さんも、何度も妹を外に引っ張り出そうとした。祐子さんが34歳くらいのときにジョブカフェやハローワークに連れ出し、適性検査をしたこともある。だが、妹は「募集しているのは、どうせブラック企業だけだよ」とそれ以上、何かしようとはしなかった。

 同時期に、父と妹の3人で、一度だけきちんと話したこともあった。

「妹に、何を目的として生きていくつもりかとストレートに尋ねたんです。そうしたら“彫刻をやりたい、自分の納得できるものを作りたい”と切々と訴えた。でも、自立してもらわないと困るとも話しました。

 自分の携帯代と食事代、せめて月に4万円くらいは稼いでくれないかと言ったら、〈わかりました、そうします。お姉ちゃんに任せる〉と。一筆書いたんですよ、そのときは。だけどまったく生活を変える気はないみたい」(千波さん、以下同)

 千波さんはため息をつく。妹が父を苦しめていることで、千波さんの心もつらくなる。きょうだいはこういうとき、やはり親の心配をしてしまうものだ。だから妹の「現在」を非難したり嘆いたりしがちだ。だが嘆きながらも彼女は妹の彫刻の写真を見せ、「よくできているでしょ」と自慢げに言う。妹の作品を世に出したいと姉は心から思っているのだ。だが、妹は自信がないのか、そのチャンスをふいにする。

「オリジナルの作品ができないんじゃないかと思うんです。いや、できるんだけど、それを世に出す自信がない。アニメキャラクターなどのコピー作品は本当によくできているんですよ。オリジナルだっていけると私は思ってる。だけど妹は世間の評価を受けるのが怖いのかもしれません」