今も戦う“窃盗の衝動”

 堀の初公判から3日後、JINさんは逮捕され4年2か月間服役。奥さんとの離婚も決まった。

「立ち上げた会社も立ち行かなくなって、会社にあったはずのお金は仲間が持って逃げました。家族もいないし、会社もないし、兄貴は犯罪に手を染めた僕のこと好きじゃないから連絡取れる相手もいない。もうどうにでもなれと思いましたね」

 釈放されて2か月後、JINさんは再び事件を起こした。

「また窃盗をしました。今度は車の窃盗で2年の服役。ものを盗んでいるときの高揚感とか、楽に稼げたときの罪悪感と達成感が入り混じったようなあの感覚が忘れられなくて、やめられなかった。自分の人生なんてどうなってもよかったし、将来なんて来なければいいと思ってました」

両親の命日に製作した作品。5分ほどで感情のままに描いたという
両親の命日に製作した作品。5分ほどで感情のままに描いたという
【写真】主犯から送られてきた謝罪文、JINさんが母の命日に衝動で書いた絵

 いまでも、窃盗の衝動が襲ってくる瞬間はあるという。

「もう絶対にやらないけど、衝動とは戦っています。僕、両親の事件の影響で統合失調症があって幻覚とか幻聴が聞こえるんですけど、『盗んじゃえよ』という声が聞こえてくることもある。もちろん、いままでの罪を幻聴のせいにするつもりはないし、犯した犯罪はまぎれもなく僕のせい。こんな僕でもいつか、前の奥さんや子どもに恥ずかしくないと思ってもらえる人間になりたいから、ギリギリ耐えています」

 JINさんは統合失調症のほかにPTSDとパニック障害もある。

統合失調症で幻覚や幻聴が見えたり聞こえたりするので、ふとした瞬間にお母さんやお父さんが見えたり、声がしたります。犯人が見えることもあるかな。PTSDとパニック障害はほとんど同じで、声に敏感だから人混みがだめっていうのと、不眠症がある。薬を飲んじゃうと手足が震えて仕事ができなくなっちゃうのでいまは飲んでいません

 JINさんはこの取材の直前に、取材場所であるカフェを変更した。理由は、事前に下見をしたところ、人が多く動悸が激しくなったから。変更を伝えるメールには「変更してもよろしいでしょうか? 申し訳ありません」そう書いてあった。事件の跡は消えることがない。

「以前、東京の大きな会社で働かせてもらっていたんですが、満員電車に乗るのが難しくて辞めちゃいました。もしもあの事件がなければ……そんなありえない世界も考えてしまいます」