JINさんが17歳のとき、伯母と内縁の夫がJINさん兄弟の遺産を使いこんでいることが発覚した。

「自分たちの生活費にも使っていたけど、それ以外にも伯母の娘夫婦の料理店のリフォーム代に使ったり、伯母の内縁の夫の息子にお金をあげていたり。

 家庭裁判所に呼ばれたんですけど、全額返せばお咎めなしということになりました。本来なら後見人を解任させられるはずなんですけどね。その後また、僕らの遺産を使い込んだことが発覚。

 後見人は解任となったものの、使い込んだ遺産は貸付というかたちに。その1年後に伯母夫婦が自己破産してお金は戻らなくなりました。両親が遺してくれた遺産は僕達の命綱だった。その命綱は誰にも守られることなく消えていきました」

もしもあのとき……。暴走した罪悪感

 19歳のとき、高校生のころから思いを寄せていた女性と結婚。不良グループとは縁を切り、生まれ変わることを誓ったという。

「子どもを授かって、結婚しました。初恋の相手で、ずっと好きだった女の子と結婚できたのでめちゃめちゃ幸せでしたね(笑)。家族というものはよくわからなかったけど、なにがなんでも奥さんと子どもを世界一幸せにしようと思った。建設関連の会社も立ち上げて、従業員を30人くらい雇ってわりと成功していて、この人生も悪くないかもって感じていました」

 そんなとき、両親の事件の犯人が逮捕された。

「夕方に警察から電話がかかってきて『いい知らせと悪い知らせがあります』と言われました。いい知らせは犯人3人が逮捕されたこと。悪い知らせは、主犯の堀慶末という男が僕の両親を殺害した後に2つの事件を起こしていたことでした」

 2つの事件のうち、ひとつは強盗殺人未遂、もうひとつは「名古屋闇サイト事件」だった。JINさんの両親の事件「碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件」から9年後、2007年8月のことだ。堀は闇サイトで出会った男2人(「碧南市パチンコ店長夫婦殺害事件」の共犯者とは別の男)とともに、当時31歳の女性を拉致、監禁。現金とキャッシュカードを奪った上で、被害者の顔を粘着テープで巻き付け、ハンマーで頭部を40回にわたり殴打し殺害した。

この知らせを聞いたとき、自分を恨みました。自分が犯人のことを覚えていてちゃんと供述できていたら、2つの事件は起こらなかったかもしれない。俺、犯人の顔見てたのになんにも供述できなかった。周りの人は『そんなこと気にしなくていい』って言うけど、供述できたはずの人間って、俺しかいないから

 警察が犯人逮捕を公表すると、まもなくしてJINさんの自宅に記者が集まってきた。

住所なんて発表してないのに、すぐに記者が来て取材を求められました。僕としても、事件を風化させたくなかったから最初のうちは取材に答えてたんですけど、取材のたびに思い出さないといけないからきつくなってきた。そしたら、1週間くらいずっと週刊誌の記者が家の前で張り込むように。おもしろいネタだったんだろうけど、怖かったです。僕が仕事に行って家に奥さんと子どもしかいないときはインターホンを切っていたので、僕が帰ってくるとすぐにインターホンが鳴る。奥さんはなんの関係もないのに怖い思いをさせてしまって申し訳なかったです」

 その後、裁判が開かれJINさんも参加した。

初公判に出て、堀と対面しました。僕、開始5分くらいで身体が震えてしまってすぐに退出させてもらったんですけど、堀を見た瞬間にいろんなものがどうでもよくなった。僕の人生とか、幸せとか。『そんなもの、あの事件のときに全部なくなってたのに、いまさらなに考えてるんだろ』って思っちゃたんです

 JINさんのなかでなにかが爆発した。

夜中、車で閉店後の家電量販店に行きました。バックヤードに忍びこんで、大型テレビとかプレステとか掃除機とかいろんなものを窃盗した。窃盗している間ずっと『こんなことしちゃいけない。奥さんと子どももいるのに。生まれ変わるって決めたのに』って思ってたんですけど、その罪悪感が興奮に変わっていくのを感じました