【“死後離婚”が分けた女性たちの明暗】

実例1(60代女性、M・Sさん) 子の理解を得て新たな人生をスタート

 熟年離婚の相談で、後藤さんのもとを訪れていたMさん。専業主婦のMさんは夫の両親と同居。嫁姑問題と、夫が必ず母親の肩を持つことに長年不満を抱えていたという。

「そんな矢先、夫が病気で亡くなってしまいます。義母は変わらずMさんにあれこれ用事を頼み、煩わしい思いが募るばかり。我慢の日々が続く中、結婚し独立したお子さんの一人から同居を誘われ、死後離婚を決断して亡き夫の実家から脱出したのです」

 子どもが同居を誘ったのは、母親が祖母からいじめられているのを知っていたから。かわいそうに感じていて手を差し伸べたそうだ。

「死後離婚の制度もお子さんがネットで見つけ、母親に提案したんです。お子さんが味方なので家族とはトラブルにはならずにすみ、意外にも義母もすんなり受け入れたという話でした。円満な死後離婚といえるのではないでしょうか」

実例2(40代女性、I・Yさん) 軽率な判断で自分の首を絞める結果に

 40代で夫に先立たれたIさん。夫は職場結婚した同期。3人の子どもを残し、突然の別れだった。葬儀後、地方の田舎町にある亡き夫の実家へ。

 都会育ちのIさんは田舎を好まず、付き合いの薄かった親族と関係を続けることに抵抗を覚えた。そこで軽い気持ちで死後離婚を選んだのだが、問題が発生して後藤さんに相談をもちかけてきたという。

お子さんから『田舎のおばあちゃんが大好きだったのに』と、強い抗議を受けたそうです。お子さんたちは夏休みなどに田舎をよく訪れ、思い入れが強かったようですね

 加えて、子どもの大学受験でお金が必要な事態にも直面。

「Iさんはキャリアウーマンで経済力があったのですが、一番上のお子さんだけでなく2人目のお子さんも私立大学を希望し、首が回らなくなって。しかし、『義父母には頼りたくても頼れない……』とこぼし、死後離婚の選択を後悔されていました」

取材・文/百瀬康司

後藤千絵さん 弁護士、フェリーチェ法律事務所代表。損保会社勤務などを経て、30歳過ぎから法律の道へ。2008年、弁護士登録。'17年、スタッフ全員女性の同事務所を設立。家族事案を得意とし、離婚問題は女性を中心に年間300件の相談に乗る。