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ー 『確証バイアス』と『カリギュラ効果』

《ザッザッっていう音がどこからともなく聞こえる》《1番出口の階段で何者かに押されて“来ちゃいけない”と言われた》《あの坂に近づいた途端に足をつかまれた》

 これらはすべて韓国・梨泰院に行った人々がSNSに投稿したものだ。'22年10月29日、159人もの死者を出した梨泰院圧死事故から間もなく1年がたとうとしている。『群衆雪崩』とも名づけられたその事故は、ハロウィンで集まった人たちが狭い路地に密集し、押されて倒れた人たちの上にさらに人が倒れて重なり、日本人2人を含む158人が亡くなった事故だ。助かったものの、のちに自死した人を含めれば犠牲者は159人にのぼる。事故が起きるまでは韓国最先端の若者たちが夜ごとに集う流行りのスポットだったが、今はゴーストタウンと化していると一部で報じられた。事故現場近くの飲食店店主は週刊女性の取材に、

「昼間にシャッターが閉まっているのは昔からです。実際には夜はそれなりに人が集まっていますよ。ただ、心霊現象の話はよく聞きます。私もゴミを捨てに外に出たときに、いるはずもない集団が横切るのが見えたことがあります。気のせいだと思うのですが……」

 と答え、ゴーストタウン化を否定したが、“ゴースト”の存在は感じているようだ。今年もハロウィンイベントは開催されるのだろうか?

「百貨店からスーパーまでハロウィン関連の商売は控えています。韓国国民みんながあの事故を思い出しては胸を痛めている」

『確証バイアス』と『カリギュラ効果』

 一方で心霊スポットとして事故現場に近づく不謹慎な若者も、後を絶たないという。

スマホやビデオカメラで動画を撮りながらリポートしているユーチューバーのような人たちをよく見かけます。私の知人は数名、あの事故で亡くなっているので腹立たしい思いでいっぱいになります

事故現場には追悼の言葉を書いた無数の付箋が貼られている。この付箋から霊気を感じるという人も 写真/共同通信社
事故現場には追悼の言葉を書いた無数の付箋が貼られている。この付箋から霊気を感じるという人も 写真/共同通信社

 自身も事故現場で霊体験をしたという店主。実際に霊がいるのかどうかはわからないが、霊を見たと考えてしまう理由を心理カウンセラーの小日向るり子さんに聞くと、

心理学用語で言うところの『確証バイアス』がかかっている状態といえます。確証バイアスというのは、自分が信じていることだけを裏づける情報を自ら探す心理のこと。あの事故を知って現場に行く人はその時点で何らかの確証バイアスがかかっている状態。風が吹いただけでも“圧を感じた”という状態になってしまうのでは。心霊写真といわれている画像を見ましたが、事故を意識しなければただの影に見えました。でもあの事故を知っている人からすれば“苦しんでいる人の顔”に見えてしまうんです」

 と、独特の心理状態を推測する。続けて、

「確証バイアスだけではなく『カリギュラ効果』も同時に働いているのではないでしょうか。カリギュラ効果とは、禁止されるほどやってみたくなる心理現象のことをいいます。(興味本位で)事故現場に行くと告げたら“行かないほうがいいよ”と周囲は止めるでしょう。それでさらに現場に行きたくなって、行ったからには何かを体験しないと帰れない心理になる。その2つが相まって霊が見えているのではないかと思います」

 とはいうものの、小日向先生自身は心霊現象そのものを否定はしない。

「あの事故では158人もの人が突然亡くなったわけですよね。誰も自分が死ぬなんて思わずに行った場所で。そうなると思念だけが残ってしまうというのもうなずけます」

 犠牲になった人たちの無念さは計り知れない。