パチンコ依存の浪人から一転、逆玉の学生結婚へ

デビューからハイペースで作品を発表してきた赤松が改稿に1年半を費やした作品が『救い難き人』だ(撮影/佐藤靖彦)
デビューからハイペースで作品を発表してきた赤松が改稿に1年半を費やした作品が『救い難き人』だ(撮影/佐藤靖彦)
【写真】お酒はなんでも飲むという作家・赤松利市、特に好きなのはレモンサワーだそう

 国文科に進んだ赤松は、最初の妻となる女性に出会う。

「学生結婚です。好きになったら結婚せなあかん。そう考える人間です。結婚の覚悟があるから好きと言うんです」

 その結果、赤松は現在までに4回結婚し4回離婚した。赤松の好みは、薄幸そうで影の薄い、現実感のない女性だ。4作目の小説『ボダ子』に「薄幸の女」という章がある。
《その女は、浩平が好物とする女だった。ど真ん中だった。薄幸を絵に描いたような女だ。(中略)不幸が女の身を削ぎ落したかのように頼りなく細かった》

 自伝的要素が強く、自身を投影した主人公の女の好みは、まさに赤松本人のものだ。

「1人目の妻は薄幸ではないが生きている実感のない女でした。すごいお嬢さんで、苦労したことがないからか、現実味がない。奈良の実家は、自分の土地だけを踏んで大阪に行けるという大地主。町長は彼女の父親の一存で決まる。大企業の大株主で、働いたことのない父親は麻雀とボウリングが趣味。近くのボウリングセンターのレーンを2つ年間契約していました」

 “結婚したい”と言う赤松に彼女の父親はあっさり承諾。

「ただし、1つだけ守ってほしい、と。なんぼ君が飲み歩こうと遊び歩こうと構わない。けど、政治だけはするな。あれはむちゃくちゃ金がかかる。政治さえせんかったら、なんぼ金使おうとそれでつぶれる身上じゃないからと」

 当初、赤松は大手百貨店から内定が出ていたが、父親の知人の頼みで大手消費者金融会社に就職が決まっていた。いわゆるサラ金だ。義父にそれを打ち明けたら、どんな反応がくるかと身構えた。

「でも彼女の父親にサラ金と言っても通じない。“お客様にお金貸して利息いただくような”と説明したら、“銀行みたいなもんか”と。あの時点で格差を感じましたね」

 縁故入社の赤松は、仕事のソフトな奈良支店に配属される。入った以上はバリバリ仕事をこなす気だったので物足りない。思わず、支店長に向かって“ゆるいですわ。もっと自分を磨ける厳しい支店ないですか”と大口を叩いた。

 結果“地獄の岡山支店”として恐れられた支店に勤務することに。だが、赤松は不良債権を抱えるその岡山支店で債権回収の独自メソッドを作り、入社2年目にして“貸金回収額全国1位”の記録を打ち立ててしまうのだ。

「むちゃくちゃ働きました。その代償として嫁が息子を連れて実家に帰ってしまった」

 奈良まで出向いた赤松を待っていたのは“あなたの給料なんか、お父さんの一晩の麻雀代にも足りない”という妻からの一言だった─。

「これはわかり合える間柄じゃないと。向こうとしたら跡取り息子もできて、私は用無し。息子は今40歳ぐらいになっているはずです」

 妻と別れ、消費者金融で出世街道をひた走る赤松は東京の営業企画本部に配属された。会社が上場準備に入るのを機に営業マニュアルの作成を担当。同僚の女性と2度目の結婚をする。多忙で家に帰れぬ生活をしていた赤松に、ある日、彼女は妊娠を告げた。

「よかったよかった、と喜んだけど、よく考えたら覚えがない。ついに嫁も“実はあなたの子どもじゃない”と言い出した。少し動揺しましたが“これは2人で一生墓に持っていこう。2人の子として育てよう”と言った」 

 しかし、社員旅行から戻ってきた赤松は、妻から堕胎の事実を知らされる。

「相手は、同じ社内の経理部の男でした。私には切れたと言いながら、関係を続けていた。社内で事態が露見して、彼は馘首されました」

 毎日、朝の4時5時まで働くハードワークの日々が続き、プロジェクトチーム5人は赤松を除き、全員がリタイアの末に病院送り。すべてが終わって家に戻ると、離婚届が食卓に置かれていた。2回目の離婚である。30歳の赤松は“燃え尽きた”と言葉を残して会社を辞職する。