追い返したいという意思がみなぎる福祉事務所職員

 竹内さんを前にして、同じ年くらいの相談係は、まず自立支援センターの説明をした。

「自立支援センター」とは東京都と23区が運営するホームレス支援のための相部屋の施設で、3か月~6か月間、無料で滞在できる。施設では三食は提供されるが、生活保護とは違い、現金はほとんど支給されない。

 生活保護を希望している人に自立支援センターを情報の一つとして説明するのはアリだが、そこしかないような印象を与えるのは水際である。

 相談係は言う。

「基本的に集団生活みたいなところに入ってもらって、仕事できるようになったらしてもらって、もし1か月やってみたけど就労できないってなった場合、そんときにはまた別の施設(生活保護申請に切り替えて無料低額宿泊所か?)って、基本的にはそこに入ってもらうんですけど、中には集団生活イヤっていう人もいるんですよ」

 竹内さんはまさにその「集団生活」にトラウマを抱える人だった。

 竹内さんはセクシャルマイノリティで、過去に入所したことがある施設で怖い思いをしたり、差別・偏見の目に晒されたりしたことがある。

 また、外出や門限などの制限がある施設に入所すれば、唯一の支えである恋人に会うことも難しくなる。それはとても辛いことだった。

 そう説明しても、相談係は「仕方ない」「我慢するしかない」「今はそんなひどい人はいない」などと言って取り合ってくれない。

 それどころか、「集団生活が嫌っていうんだったら」と前置きしてから、

「例えば、なかなか言い出しにくいとは思うんですけど、自分でやる提案として、アパート初期費用を誰かから借りて自費転居っていう方法があるんで。自分の力でやる転居です」

 と言った。なんと、もともと借金がある相談者に更なる借金を提案しているのだ。

「自腹で、借金しろとは言わないですけど、親族に金借りるお金があるとかだったら、金借りて、自分で転居先をどっかで見つける。たとえば足立区の比較的家賃安いとことか……決めてから管轄する自治体に生保申請する。仕事見つからない、働けないとかでやむを得ず生活保護を申請するって形になると思うんですけど」

 相談係は竹内さんのこれまでの履歴を聴き取りしたあとで尚、初期費用を出してくれる知り合いがいると思ったのだろうか。思ったのだとしたら、状況を把握する能力が欠けていると言わざるを得ないし、言っていることは全部、違法な追い返し(水際)だ。

 しかも初期費用だけあっても、安定した収入やふんだんな預金がなければ、部屋など借りられない。保証会社の審査を通らないからだ。