闘病で自身の命を実感、諦めない看護がテーマ

 しかし71歳のとき、突然の強いめまいに襲われ、後頭蓋髄膜腫が判明する。

「難しい手術だったので『術後も働けるかな』というのがいちばんの心配事でした。偶然のラッキーが重なって予定どおり手術でき、自分が生きていることに涙が出ました。これまで多くの人の生死に携わってきましたが、初めて“ひとつしかない私の命”を感じました。貴重な体験です」

 この経験を生かしたいと考え、2014年、73歳で訪問看護ステーションを開設した。

「大きな手術を体験したことで術後のフォローの大切さを意識しました。誰の命でも大切に思い、諦めないという気持ちで看護を続けたくて。静岡時代の同僚が非常時には応援に来てくれ、本当に助かっています」

 今の役割があるので健康でいなければという思いも強い。

「3年前までは朝5時に起きてウォーキングをしていたのですが今はやめてしまい、カーブスに通っています(笑)」

 ここ4年、江森さんはシングルマザーの長女一家の生活のサポート。平日は毎日、夕方から娘宅で3人の孫の世話と家事をしているという。

「意外にも娘の家への移動が仕事から離れるスイッチになって、ストレスが減りました」

 自身が楽しいからと続けているという看護と介護。

「70年間、看護をやってきたおばあさんの話を、これからも若い人に伝えていきたい。後進を育てつつ、もう少し年をとり、時短勤務になっても感動のある看護を続けることが私の夢ですね」

江森けさ子(えもり・けさこ)/2000年まで病院や看護専門学校などで看護職に従事。リタイア生活を送るため故郷(現松本市)に戻るが、介護に携わるように。著書に『老いも死も自然がいいね』(農文協)。

(取材・文/松澤ゆかり)