南谷さんによるとグルメドラマは、「人生の学びも多く盛り込まれている」という。例えば『ランチのアッコちゃん』(2015年・NHK)は、恋や仕事に悩む女性を、食べ物の力で救うという一風変わったテーマのドラマだった。

「『自分を変えたいなら食べるものから変えなさい』という言葉が印象に残っています。気持ちもやる気も食事から。人間関係も仕事も、さらには自分の将来まで、すべて食とつながっていることを教えてくれました」

 カフェ「HOLIC color drinks & Food Lab」の店主・谷出一真さんも、『宮廷女官チャングムの誓い』(2003年・NHKほか)を見て自身のマインドがガラリと変わったという。

韓流ドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』
韓流ドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』

「味覚を失い思うように料理ができなくなった主人公が、上司の女官から『あなたには味を描く能力がある』と言われるシーンがあります。このセリフを聞いてから、料理への向き合い方が変わりました。

 思いつくまま料理をするのではなく、調理法や味つけを描くことを意識することで、より自分らしい料理を作ることができるようになったんです。これまで食をテーマにした作品はたくさん見てきましたが、私の中ではこれが一番です」

 ドラマの世界観に憧れ、実際に店舗をつくってしまったのが、飲食店グループ「ドリームリンク」代表取締役の村上雅彦さん。『ワカコ酒』(2015年・BSテレビ東京)を見て、主人公の村崎ワカコの生き方に魅了されてしまったという。

「OLのワカコがひとり酒を堪能するお話なのですが、その姿がすごくカッコいいんですよね。まんまと影響され、女性のひとり飲みが似合う『大吉田』という店を、東京・虎ノ門につくってしまいました。ワカコさんのような人が来てくれたらうれしいです」

 配信作品からも名前が挙がった。「クロッサムモリタ」のオーナーシェフ・森田隼人さんは『The Menu』(2022年・各種動画配信サイト)をチョイス。

 太平洋に浮かぶ孤島の人気レストランで起きる、予測不能な事態を描いたサスペンスだが、「まさに私のレストラン『クロッサムモリタ』そのものでした」とのこと。

 リアルな“食”の現場では、まさに毎日がドラマであふれているのかも!

回答してくださった方々(50音順・敬称略)

石塚規(日本料理 銀座 いしづか 店主)
イチカワミズホ(ショートケーキカンパニー シェフパティシエ)
稲葉正信(銀座稲葉 オーナー兼料理長)
大山ジュン(株式会社ビープラウド 代表取締役) 
久保木秀直(株式会社 渋谷の歩き方 代表取締役) 
黒須浩之(神楽坂くろす 主人)
小川博行(株式会社CHAYAマクロビフーズ 代表取締役)
武田あかね(フードサービスアドバイザー・株式会社キイストン取締役)
谷出一真(HOLIC color drinks & Food Lab 店主) 
時任恵司(うなぎ時任 店主)
南谷素子(「こども食堂サザンクロス」運営)
藤森真(ワインスクール・シャルパンテ・カレッジ理事長兼学長 ビストロ・ヴィノシティ・グループ オーナーソムリエ)
宮川隼汰(「鮨&BAR 不二楼」店長)
村上雅彦(株式会社ドリームリンク 代表取締役)
森田隼人(六花界グループCEO クロッサムモリタ オーナーシェフ)

【15人の「食のプロ」たちが唸ったドラマ
『味いちもんめ』(1995年・テレビ朝日系)中居正広
『王様のレストラン』(1995年・フジテレビ系)松本白鸚(当時は松本幸四郎)
『ソムリエ』(1998年・フジテレビ系)稲垣吾郎
『アンティーク 〜西洋骨董洋菓子店〜』(2001年・フジテレビ系)滝沢秀明
『宮廷女官チャングムの誓い』(2003年・NHKほか)イ・ヨンエ
『バンビ〜ノ!』(2007年・日本テレビ系)松本潤
『深夜食堂』(2009年・TBS系)小林薫
『高校生レストラン』(2011年・日本テレビ系)松岡昌宏
『孤独のグルメ』シリーズ(2012年〜・テレビ東京系)松重豊
『天皇の料理番』(2015年・TBS系)佐藤健
『ランチのアッコちゃん』(2015年・NHK)蓮佛美沙子
『ワカコ酒』(2015年・BSテレビ東京)武田梨奈
『昼のセント酒』(2016年・テレビ東京系)戸次重幸
『極道めし』(2018年・BSジャパン)福士誠治
『グランメゾン東京』(2019年・TBS系)木村拓哉
『きのう何食べた?』シリーズ(2019年〜・テレビ東京系)西島秀俊内野聖陽
『The Menu』(2022年・各種動画配信サイト)レイフ・ファインズ

取材・文/中村未来 取材協力/オーナーズ11 〜飲食の戦士たち〜(株式会社カロスエンターテイメント)・株式会社ドリームパスポート