山本由美子さん「開催してよかった “文さん引退式”」

 31歳の年の差婚が話題となった山本文郎アナウンサーと妻の由美子さん。2014年に肺胞出血という突然の病に倒れた山本さんと死別した後しばらくは「身体中の涙が全部出るほど泣いて暮らした」という。

 夫の幻覚を見るくらい落ち込んでいた由美子さんは、「引退式」というお別れの会を催したことで少しずつ気持ちが落ち着いていったそう。その引退式の準備に携わってくれた方々に、ネクタイや服を渡していったという。

山本さんとは'08年に結婚。31歳の“年の差婚”は当時話題となった
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【写真】夫との死別を乗り越えるために必要な「コーピング」の方法

 松岡先生によると、亡くなったあとの葬儀や法要がグリーフから回復するステップの役割を持つ。「引退式」というのは独特だが、納骨式や一周忌といった故人を偲ぶ会は行うほうがよさそう。

「法要などの追悼行事のたびに、故人を失ったこととしっかり向き合って、少しずつ別れを告げられるようになるといわれています。由美子さんにとっても、そういう心の準備段階であったのかなと思います。

 こういった法要を通じて、故人のために十分なことをしたという思いになりますから、初七日や四十九日などをきちんと執り行うのは、遺された側にとっても大切なことなんです。

 手続きや準備をすることで、悲しみに浸る時間だけの偏った生活から日常生活を取り戻していくプロセスも踏めるので、実務的にもよい効果があるのかなと思います」

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 それぞれの踏み出し方があるが、どうしたらいいのか思い詰めてしまう人も多い。松岡先生は残念ながら日本では遺族のためのケアはまだまだ浸透していないと語る。

「大事な人であればあるほど、悲嘆の状態は長く続いていきます。重症になると何年もうつ症状や不眠に悩まれる方もいらっしゃいます。

 ですがグリーフケアが医療従事者の間でも浸透していないことから、抗うつ剤や睡眠導入剤を処方され、症状が改善されずに苦しむケースも残念ながらあります。

 特に症状はないけど念のため相談しておこうかな、くらいの感覚でどんどん遺族ケア外来を利用してほしいです」

松岡弘道さん●国立がん研究センター中央病院精神腫瘍科長 家族・遺族ケア外来では患者さんと家族を対象とした心のケアを担当。カウンセリングや薬の処方を患者さんの希望に合わせて行っている

取材・文/諸橋久美子