バチカンからの対処を望み、自助グループも結成

 信仰心の篤い田中さんは、神父に刑事罰を望むのではなく、「自分が何をやったかを見つめて改心してほしい」と考えていた。しかし、組織から変えていかなければ、同じような犯罪はまた起こってしまう。

 最高機関であるバチカンは性的虐待防止などのガイドラインの作成や窓口の設置などを世界のカトリック教会に指示しているというが、田中さんの事例からは機能していないことがわかる。

 2023年10月、秋田弁護士からの助言もあり、田中さんはローマ教皇にあてて被害を訴える手紙を出した。

「神父を告発することは神への裏切りではないかと考え、被害に遭っても訴えられない人も多いと思います。神父と修道会の罪を明らかにし、私の自尊心を取り戻す手助けをしてほしいと伝えました」

 修道会は田中さんの訴えをどう考えているのか、週刊女性からも神言修道会日本管区センターに取材を申し込んだが、「係争中のため回答は差し控える」という返事だった。

 聖職者からの性暴力は、キリスト教だけではない。今年、四国に住む50代の尼僧の叡敦さんは、天台宗の寺の60代の住職から「逆らうと地獄に落ちる」などと恫喝され、繰り返し性暴力を受けたと訴えた。この住職を紹介した80代の大僧正に助けを求めても相手にされなかったというから、田中さんの被害と構図は似ている。

 田中さんは傷つき、苦しみながらも、信仰を捨てたわけではない。現在では自分と同じように聖職者から性暴力を受けた人たちが回復を目指す自助グループ「みのりの会」を主宰している。

「力を取り戻すこと、幸せになること、本来の信仰のあり方を取り戻すことを目指し、学び合い、共に支え合っていきます」と田中さんは話す。

 秋田弁護士は、サバイバーである田中さんが持っている力が社会を動かすと考えている。

「田中さんは性暴力に遭い、さらに周りに訴えても助けてもらえないという状況を2度も経験しながらも、生き抜いてきました。性加害を世間に公表することは、顔や名前を隠して恥ずべきではないことを社会にも示しています。堂々と闘う田中さんの姿が性被害を受けた人々を勇気づけられるのではと願っています。裁判は尊厳をかけて闘う一つの手段です」

【性被害を実名で告白した主な女性たち】

◆伊藤詩織さん

元TBS記者の男性から性暴力被害を受けたことを告白。元記者を訴えた民事訴訟では、性暴力被害が認定され被告に約330万円の支払いを命じる判決が’22年7月に確定

◆五ノ井里奈さん

陸上自衛隊に所属していた2021年の6月~8月、複数の上官から集団でセクハラを受けたことをYouTubeで告白。上官たちの行為は’23年12月福島地裁で強制わいせつ罪と認定された

◆桐貴清羽(きりたか・きよは)さん

中学卒業後、置屋に仕込みとして入り、16歳で舞妓デビューしたのちにさまざまなセクハラやパワハラを経験したことをTwitter(現・X)上で告白

◆叡敦(えいちょう)さん

2009年から約14年間にわたり、天台宗寺院の60代の男性住職に信仰につけ込んだ性暴力と心理的支配をされていたと告白。天台宗務庁に住職らの懲戒処分請求をした

取材・文/紀和 静