運動は嫌い。食事も好きなものを食べる
自宅では、重いものを持とうとすればデーブさんが飛んでくる。結婚当初から「料理はしなくていい」とデーブさんに言われ、食事は外食が中心。今も、がんになる前と変わらない暮らしを送る。
「私の場合、がんがわかってからも、例えば食事なら『これは食べない』と制限をせず、好きなときに身体が欲するものを食べることにしています。もちろん健康的なものを食べたいと思えばいただきますが、無理はしません。運動もしたほうがいいとはわかっていますが、あまり好きではないので……。近所のホテルに行くときも車に乗ってしまいます(笑)」
自分にとってストレスがなく、心地よい生活を送ることこそが療養になっている。そして自身を、もともと「能天気な性格」と言う京子さん。病を経験しても、「なるようにしかなりませんから」と、心はいたって冷静だ。
「私の母は、ものすごく心配性で、どこか痛いと、すぐ『がんかもしれない』と言って、病気になる前から心配していました。もちろん昔は、がん=治らない病気というイメージがありましたが、心配のしすぎもストレスになりますよね。母には、『病気になったときに考えればいいから』と、言い聞かせていました。だから、真逆の性格になったのかもしれません」
ただし、デーブさんには申し訳ないという思いが強かった。
「私の前で絶対に動揺を見せませんでしたが、ショックは大きかったと思いますよ」
夫婦2人で過ごせる普通の日常がいちばん

アメリカのホテルでコンシェルジュとして働いていたころにデーブさんと出会い、1981年に結婚。今年で結婚44年目を迎えるが、これまで夫婦ゲンカは一度もない。
「デーブは私の誕生日や記念日などの節目には、感謝の言葉を記したレターやプレゼントを欠かさずくれるんです。私は、結婚してから2、3度しかレターを渡したことがなくて、いつも与えてもらってばかり。『釣った魚にエサをやらない』という言葉がありますが、私は結婚前も結婚後も、ずっとエサをもらいっぱなし(笑)。円満でいられるのはデーブのおかげ。退院後にもらったカードは私にとって今、いちばんの宝物です」
夫婦そろって出演した『徹子の部屋』のトークでは、グッときたデーブさんの言葉があったと振り返る。
「徹子さんに夫婦でしたいことを聞かれたときに、デーブが『普通でいいです』と言ったんです。その言葉が心に刺さりました。『普通の生活』が当たり前に送れないときもあるし、送れない人もいます。人生いろいろある中で、普通に暮らせることこそが、いちばんの幸せですね」
がんを経験して、夫婦で過ごす平穏な日常がますます大切になった。今後は、2人で息抜きできる時間も持ちたいと京子さんは話す。
「長期のお休みがとれたら、デーブの行きたいところに2人で旅行したいですね。いつも私の行きたいところばかりに連れていってもらっているので。そうはいっても仕事が大好きな人なので、休みがあっても、結局『家で仕事をしたい』って言うかもしれませんけどね(笑)」
京子スペクターさん。タレント、エッセイスト。スペクター・コミュニケーションズ代表取締役。テレビコーディネーターとして企画・プロデュースも手がけるほか、アルバニア共和国名誉領事を務めている。(Instagram)
<取材・文/釼持陽子>